寝る前に両足に違和感を感じたら…「糖尿病性神経障害」を疑う
糖尿病性神経障害は腎症、網膜症と並び糖尿病の3大合併症に数えられています。ところが、一般の人は具体的にどんな症状が糖尿病性神経障害によるものなのか、わかっておらず、関心が高くないのは残念なことです。糖尿病のある人の寿命は延伸しておりますが、糖尿病性神経障害は“健康”寿命に強く影響を及ぼすため、大きな問題となっています(健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)。世界的に糖尿病性神経障害の定義がハッキリしていないせいもありますが、今回、糖尿病性神経障害がどのようなものなのかを知っていただきたいと思います。
糖尿病性神経障害は糖尿病に特有な代謝障害と細小血管障害が関与する末梢性神経障害を言います。末梢神経には痛み、温度感覚、触覚などの感覚を伝える感覚神経、手や足をつかさどる運動神経、それに内臓や内分泌器官の働きを調整する自律神経があります。つまり、糖尿病性神経障害とは糖尿病によって起きる感覚・運動神経、自律神経の障害のことを言います。
感覚・運動障害の代表例が足病変です。足趾や足裏などに左右対称性にじんじんしたしびれや痛みが出て、病気が進行するにつれてそれが徐々に体の中心に向かっていきます。
自律神経障害で多いのは下痢や便秘、汗をかきにくい、尿意を感じない、尿が出にくいといった症状です。ほかにも立ちくらみ、すなわち起立性低血圧を起こすことがあります。健康な人は立ち上がったときに脳への血流を維持するために自律神経が反応して血管を収縮し、脳から足に血流が一気に向かわないようにする一方で心筋を収縮させ血流を増やし脳への血流を確保します。糖尿病性神経障害になると、血管反射などの遅れにより起立性低血圧を起こし、立ちくらみを感じるわけです。
高齢者のなかにはこの起立性低血圧がキッカケで転倒して寝たきりになったり、お風呂場で失神しておぼれたり、亡くなったりするケースがあります。そのことを本人はもちろん、周囲の人たちは意識して生活する必要があります。
しかし、こうした症状は糖尿病以外の原因でもなり得るため、鑑別は難しい面があります。よく足がつるので糖尿病ではないか、という人がいます。実際、自律神経障害の人も多いのですが、脱水でなる場合もあるので、すぐに断言できません。
また、糖尿病性神経障害のある人は瞳孔の面積が小さく、光に対する反応も遅く小さいことがわかっています。しかし、だからといってそれを自覚することはまずありません。運動神経が障害されてモノが二重に見える人もいますが、それも多くはありません。
このため、糖尿病性神経障害は全身の健康状態をじわじわ損ない、寿命にも大きな影響を与えているにもかかわらず、矮小化され、軽くみられる傾向にあります。しかし、糖尿病性神経障害を患っている人は、その意味を知り、普段からケアしていく必要があります。
なお、糖尿病性神経障害と間違いやすいもののひとつに、シジミやアサリなどの貝類やサンマやイワシなどの青魚、牛や豚などの肉類に多く含まれるビタミンB12不足による神経障害があります。
ビタミンB12を体が吸収するには胃壁細胞から分泌される内因子と呼ばれるタンパク質と結合しなければなりません。しかし、胃壁や胃全体を手術で切除した人や菜食主義で動物性の食べ物を口にしない人は、それができず、糖尿病性神経障害と同じような症状を見せます。
ビタミンB12不足である場合は、それを摂取すればよいのですから、そのことも知っておくことが大切です。