自分だけが生き残ったSF映画の主人公のような気がした
今回の旅では、シンガポールから大阪への便がキャンセルで、既に<4回目のキャンセル>だ。スペイン・マドリード在住の後輩Mカメラマンから「28日のロンドン発・アムステルダム経由の大阪行きのKLMが数席空いています」との情報が。何とか帰国便を確保した。
午後10時30分にロンドン市内の宿に到着。ブラジル・マリンガから丸3日かかったことになる。
▼3月25日 水曜
市内取材のためにロンドンバスの2階席を利用した。いつも観光客であふれているバッキンガム宮殿前は誰もいない。首相官邸に向かって歩いた。遠くに青いビニール袋を被った<少女>が見える。近づいてみると医療スタッフだった。女医と看護師のようだ。しかし2人ともNHSのユニホームを着ていないのでボランティアの医療従事者ということか? ともあれ青いビニール袋というのは……もしかしたら防護服が足りないのでビニール袋で代用しているのか?
ベンチに座っている老人の身なりはちゃんとしているが、どうやらホームレスのようだ。大きなリュックに晴れているのに傘を持っている。それにしても、急速に感染拡大が進んでいる欧州にあって、ホームレスを検査する国があるだろうか? イングランドには<ゆりかごから墓場まで>という言葉があるが、NHSの治療はイングランド在住者のみならず、旅行者であっても原則無料である。30年前、語学留学中にレントゲン検査を受けたが、一銭も払わなかったことを思い出した。自分たちも感染するかも知れない。そんなリスクを背負いながら、ホームレスの治療に当たった女性医療従事者。心の底から彼女たちの行為に感動し、カメラの液晶画面が滲んでしまった。