著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

マリティモ前田大然はマデイラ島で自宅待機「耐えるしか」

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 7月24日に開幕するはずだった東京五輪。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で1年の延期が決定し、最も影響を受けているのはアスリートたちだ。サッカー男子代表もU-23(23歳以下)の年齢制限がどうなるのか、微妙な情勢だった。4月に入って国際サッカー連盟(FIFA)が、従来の「1997年1月1日以降生まれ」という出場資格を維持する方針を表明。これで<24歳以下の選手>も本大会に出場できるようになった。当事者のひとりで現在、クリスティアーノ・ロナウドの生まれ故郷で知られるポルトガル・マデイラ島の自宅で待機生活を送る前田大然(22)も「24歳以下になると言われていたけど、少し不安はあった。その通りになってホッとしました」と安堵感を口にした。(編集部注=インタビューは電話で行われました)

■「早くボールを思いっきり蹴りたい」

 ――3月中旬から自宅待機になったんですよね?

「14日のリーグ戦が中止になった後、4~5人で練習することが許されていたんです。でも17日から活動休止になり、自宅で体幹や筋トレをしたり、駐車場でボールを蹴るくらいしかできなくなった。3月末からはオンラインでのフィジカル強化が始まり、4月中旬には外を走れるようになりました。今は毎日10キロくらいのランニングをしてますが、5週間サッカーしてません。早くボールを思いっ切り蹴りたいです」

 ――ポルトガルは欧州の中で感染者も死者も少ない国です(5月1日現在で感染者が2万5045人、死者が989人)。

「田舎だから人が来ないせいかな(笑い)。でもマデイラ島でも感染者が増え、フンシャル近くの町で集団感染が発生したと聞きました。非常事態宣言も5月2日まで延長されましたし、外出制限も変わっていません」

 ――今の生活は?

「妻と生後10カ月になる娘(爽世ちゃん=写真)と生活していますが、言葉の通じない国で万が一、感染したら本当にどうなるか分からない。クラブから貸与されている車が古くて、バッテリーが上がるアクシデントがこのところ頻繁に起きるんですが、それさえもスタッフを呼んで充電してもらっているくらい(苦笑い)。そんな感じだから、病院でまともな意思疎通は図れないと思うし、絶対に感染させられない。怖くて外に出せないんで買い物は自分1人で週2~3回行ってます。嫁さんの実家も心配してますけど、リーグ戦が6月ごろに再開される可能性もあるし、契約も6月末まで残っている。僕自身もポルトガルで最後までしっかりプレーしたいんで、今は耐えるしかないですね」

五輪年齢制限問題の解決に安堵

 ――東京五輪も1年の延期が決まりましたね。

「いろんな報道を見て『中止になるんだ……』と複雑な心境になりました。僕は2019年6月の南米選手権で『このままじゃ五輪に出られたとしても活躍するのは難しい』と痛感して、欧州挑戦に踏み切りましたからね。でも1年の延期が決まった。そこで年齢制限問題が浮上した。『方向性が出るのを待つしかない』と思っていました」

 ――他の五輪メンバーとの意思疎通は?

「雄太君(中山=ズヴォレ/オランダ)が中心となって『みんなで頑張ろう』と発信してくれていました。ユキナリ(菅原由勢=AZ/オランダ)や、タケ(久保建英=マジョルカ/スペイン)とも連絡を取り合っていたけど、みんなで乗り切れたらいいという気持ちでした。4月にFIFAの方針が出た時は、よかったと素直に思いましたね」

 ――コロナの収束が見えない今は五輪代表活動の再開も難しいです。

「3月のU-23のコートジボワール、南アフリカとの2連戦が流れ、7月の神戸での親善試合も中止になった。FIFA関係者も『今年の国際試合実施は難しい』と言っているみたいだし、9月以降の代表活動もできないかもしれない。先行き不透明だと思います」

 ――森保一監督の兼任問題も重なり、チームづくりがイチからやり直しになる可能性もありますね。

「僕にとってはイチからだろうが、途中からだろうが関係ない。来年7月にパワーアップした自分がいればいいんです。娘も来年夏には2歳になりますし、自分が東京五輪に出る姿を記憶してくれるかもしれない。『パパの活躍、覚えてるよ』と言われるように頑張るしかない。そのためにも自主トレを続けてコンディションを保つこと。今はそれが第一だと思います」

 ――五輪に出られなかったとしても、2018年ロシア大会で活躍した大迫勇也(ブレーメン/ドイツ)や柴崎岳(ラ・コルーニャ/スペイン)のような選手もいます。

「サッカー選手の場合は五輪がキャリアのゴールではないですからね。W杯の本大会に出ることの方が重要。昨年の南米選手権に初めてA代表として出ましたけど、何も分からないうちに終わってしまった。A代表でどんどんプレーしたいし、強い相手と戦いたいという意欲は強まりました」

 ――そのためにも今後のキャリア形成をどうしていくかが重要です。

「マリティモとの契約が終わった後、どうするのか、まだ決めていません。もちろん欧州で挑戦したい気持ちはあります。でも、今回(の新型コロナ禍)ばかりは状況が違うので、家族や代理人としっかり相談しながら、自分が最大限飛躍できるように考えていきたいです」

(聞き手=元川悦子/サッカージャーナリスト)

▽前田大然(まえだ・だいぜん) 1997年10月20日生まれ、大阪・南河内郡出身。山梨学院高から2016年にJ2松本入り。17年にJ2水戸にレンタル移籍して13得点。50メートル5.8秒の俊足と決定力に磨きをかけ、18年にU-21日本代表選出。19年6月の南米選手権(ブラジル)でA代表デビュー。同年7月にポルトガル1部マリティモに移籍。森保監督が大きな期待を寄せているスピードスターである。

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