「私が目の当たりにしたマラドーナ」 3人の日本人が語る

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 サッカー界のスーパースターであるマラドーナが25日に死去した。60歳だった。アルゼンチン代表のエースナンバー10を背負ってW杯に4回出場。優勝の立役者となった1986年のメキシコ大会では「神の手ゴール」「5人抜きゴール」の伝説的プレーを残した。元日本代表選手、サッカー殿堂入りカメラマン、サッカー専門誌元編集長が、神の子・マラドーナとの思い出を語る。

  ◇  ◇  ◇

■都並敏史さん(59歳)=元日本代表

「82年1月、マラドーナ擁するアルゼンチンのボカ・ジュニアーズが来日し、ゼロックス・スーパーサッカー全3試合で対戦しましたが、とにかく<まるで大きな手でボールを扱っている>ような安定感があった。彼のドリブルは、相対した相手が<どちらかの足に重心を乗せた>瞬間に逆を突いてくるので動きに対応できず、常に『レベルが違い過ぎる』と感じながらのプレーでした」

 現役引退後もマラドーナの威光は絶大だった。

「取材などでアルゼンチンを訪れる際、マラドーナと一緒に写っている写真を持参すると現地の人は<我らがマラドーナと公式戦を戦った日本人>としてリスペクトしてくれ、取材の便宜を図ってくれたり、飲食店で無料サービスを受けたり……マラドーナは<崇拝の対象レベルの存在>であることを何度も実感させられました」

▽つなみ・さとし 読売ク―東京V―福岡―平塚。日本代表78試合出場。仙台、C大阪、横浜FCで監督歴任。現在は関東リーグ1部・ブリオベッカ浦安のトップ監督。

今井恭司さん(74歳)=カメラマン

 ゼロックス・スーパーサッカーのCF撮影があり、私はポスター用のカメラマンとしてスタジオに入りました。そこでマラドーナの<ある癖>に気付きました。足とは違って<手作業>がおぼつかなく、スパイクの紐をほどくのが苦手だったのです。結ぶのはできるのですが、ほどくのはお付きの男性の仕事でした。

 ある試合中に驚かされたことがあります。スパイクを交換するために紐をほどこうとしていたマラドーナが人を呼び、ハサミを持ってこさせてチョキンと紐を切り、スパイクを脱いで履き替える姿を見たことがあります。あと<靴紐の穴>にこだわりがないようで<穴をひとつ、ふたつ飛ばして>結んでいました。マラドーナなりの<不揃いの妙>があったみたいでしたね。

▽いまい・きょうじ プロカメラマン。70年代から日本代表の国内外の試合に帯同。17年に日本サッカー殿堂入り。スタジオ・アウパ代表。

中山淳さん(50歳)=専門誌元編集長

 94年米国W杯で薬物違反が発覚。15カ月の出場停止処分が下ったマラドーナが95年10月、14年ぶりに古巣ボカ・ジュニアーズに移籍し、韓国遠征(韓国代表戦)で復帰すると聞き、現地取材に出向いたのですが、髪にボカのシンボルカラーである黄色のメッシュを入れていたことが思い出されます。

 試合後、記者会見場からマラドーナが引き揚げるとき、いかにも顔見知りの雰囲気を醸し出しながら『チャオ! ディエゴ!』と呼び掛けて手を差し出したら、怪訝な表情を浮かべつつもウインクしながら握手してくれました。

 確かリベルタドーレス杯だったと思いますが、取材先のブエノスアイレス(アルゼンチン)で新たに立ち上げる会社の名前をアレコレと考え、大好きなマラドーナのミドルネームである<アルマンド>に決めました。

 欧米の取材先で社名の記された取材パスを首からぶら下げていると、大半の外国人記者から『オ~! マラドォ~ナァ~!』と声が掛かり、特にアルゼンチン人のメディア関係者は『日本からマラドーナがやって来た』と大喜びしてくれます。マラドーナの凄いところは、アルゼンチンの宿命のライバル・ブラジルの関係者であっても、同じように親しみを込めた反応をしてくれるところ。マラドーナが、いかに特別な存在なのか、いつも痛感させられました。

▽なかやま・あつし 元ワールドサッカーグラフィック編集長。フットボールライフ・ゼロ編集発行人。編集制作会社「アルマンド」代表。解説者。

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