ボクシング女子フライ級「銅」並木月海<1>「あの発言で女子ボクシング自体がまだまだだったんだなと思った」
並木月海(23歳、ボクシング女子フライ級、銅メダル/自衛隊体育学校)
日本ボクシング女子は出場自体が五輪史上初のことだった。
初戦から快勝を続けるも準決勝での判定はポイント負け。銅メダルとなるが、表彰式では満面の笑みを見せた。
「(準決勝で)負けた瞬間はもちろん悔しくて、銅メダルは自分が望んでいた形ではなかったのでうれしさはなかった。でも、自分がここに来るまでの過程を『ダメだった』という言葉だけで片付けるのはどうなのかなと思った。そこから銅メダルを誇りに思えるようになって、表彰式では笑顔で臨めました。普段、マウスピースを作ってくれている方からは『最初から銅メダルを目指してきての銅メダルじゃない。金メダルを目指しての銅メダルはすごく価値がある。胸を張って帰ってきてほしい』と言われて、ありがたかった」
女子ボクシングは五輪としての歴史が浅い。男子は1904年以降、1912年ストックホルム大会を除きすべての大会で実施されてきた長い歴史を持つ一方、女子は2012年ロンドンから。
日本国内の女子ボクシングも発展途上といわれる中、フェザー級では入江聖奈(20)が日本人初の金メダルを獲得した。
「聖奈とはいつも一緒に合宿をやっていて、大会に出ればいつも同じ部屋。お互い無関心で自分のペースで過ごしているので、私は一緒にいてすごく楽でやりやすい。聖奈は普段からテレビで見るのと変わらず、ちょっとおバカな感じです(笑い)。カエルの話も普段からしていますが、私はカエルがそんなに好きじゃないので特に(その話題には)触れません。触れてほしそうな顔されるんですけど、『私は大丈夫なので~』とシャットアウトしています(笑い)」
金の入江とは大会でいつも同部屋
競技の知名度アップに貢献した2人。それに水を差したのが野球評論家の張本勲氏の言葉だった。入江の優勝を報じたテレビ番組で、「女性でも殴り合いが好きな人いるんだね。嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね。こんな競技、好きな人がいるんだ」と発言。日本ボクシング連盟が抗議文書を送る事態に発展した。
「自分は『そういう人もいるだろうな』くらいにしか思っていないですね。いろいろな人がいるのがこの世界。馴染みのないものにはそういう意見も出ると思う。柔道やレスリングみたいに(日本で)馴染みのあるスポーツだったらそうは思わないだろうし、言わないだろうなと。だから、あの発言で女子ボクシング自体がまだまだだったんだなというのは改めて思いました」
■幼少期から「女の子に格闘技?」の声を耳に
並木家は格闘技一家。5歳上の姉が極真空手を始めたことをきっかけに、4歳上と2歳上の兄も道場へ通うようになり、自然とそれに続いた。小学3年生からはキックボクシングも始めたが、当時から女子の格闘技への理解は少なかった。
「小さい頃から道場が遊び場だったので、特に恐怖はなく、まずは楽しいという感情しかなかった。それでも、親は(周囲から)『女の子なのに格闘技なんてやらせて大丈夫なの?』と言われているのを見ていた。女の子が格闘技をすることに馴染みがないことが本当に大きい。みんなそうですけど、初めて見るモノには『えっ』という感覚になる。馴染み深くなればそういう感情もなくなります。私が(入江の好きな)『カエルが嫌』っていうのと同じ理由です。触ってみたら意外とかわいいのかもしれない。食わず嫌いみたいなものなので。あ、でも私はカエルは大丈夫かなって(笑い)」
日本で女子ボクシングを浸透させるには、何が足りないのか。