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「壁の向こうの住人たち」A・R・ホックシールド著 布施由紀子訳

 特別検察官の追及をからくも逃れたトランプ。だが、かえってアメリカの分断は深まりそうだ。



 フェミニスト社会学の第一人者としてアメリカで名高い著者。人々の心の動きと社会の関わりをさぐる「感情社会学」の新分野を切り開いた女性でもある。

 ヒッピー文化の60年代後半、著者は既にアメリカの分裂の予兆を感じたという。保守的な中西部出身者が発展するカリフォルニアに移り住み、そこで目にした自由で進歩的な社会機運を道徳の危機ととらえ、アメリカが共産主義化していると解釈したのだ。

 著者はこの分裂が近年急拡大していると実感。そこで南部の奥地の小さな町でティーパーティー運動に参加する保守派の住人たちの中に分け入ることを決めた。

 本書はそのフィールドワークの記録。ジャーナリストとも普通の学者とも一味違う柔らかな人間的共感を前提とした著者の社会学的実践の記録。「アメリカの右派を覆う怒りと嘆き」(副題)がいかに根深いかよくわかる。

(岩波書店 2900円+税)

「ホワイト・トラッシュ」ナンシー・アイゼンバーグ著 渡辺将人監訳 富岡由美訳

 トランプ政権誕生の“陰の功労者”と異名をとったのが貧困層の白人たち。これが「クズ白人」を意味するホワイト・トラッシュ。本書は彼らをめぐる「アメリカ低層白人の四百年史」(副題)。その名の通り、植民地時代から現在までのアメリカ史を「クズ白人」の立場から語り直そうという試みだ。

 その「クズ」の中には19世紀のアンドリュー・ジャクソンやベトナム戦争時代のジョンソン、そして90年代のクリントンなど大統領にまで上り詰めた人物まで含まれる。

 著者はホワイト・トラッシュの中心地帯ともいわれる南部ルイジアナの歴史学教授だ。

(東洋書林 4800円+税)

「ファンタジーランド」(上・下)カート・アンダーセン著 山田美明、山田文訳

 アメリカは建国、いや最初の植民者の時代から狂信にとりつかれてきた――。これが本書のメッセージ。なにしろ副題が「狂気と幻想のアメリカ500年史」だ。

「神を信じる」という敬虔な心が反知性主義に転化するのがアメリカ。自由を尊ぶといいながら魔女狩りや悪魔信仰にも転びやすい。ゴールドラッシュは一獲千金の貪欲を人々に植え付け、フロイト心理学の大流行は「心の暗部」という発想に大衆を引きずり込んだ。愛国主義が転倒したかのような一種の自虐史観とも読めよう。

 著者はニューヨークの編集者・コラムニスト。

(東洋経済新報社 各2000円+税)


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