「落梅の賦」武川佑著
元亀元年(1570年)。伊勢国の元武士で僧侶の清安は、現世を離れるため、極楽浄土を目指す補陀落船に乗り込む。ところが死に損ない、少彦と名乗る男に海で拾われる。男は武田信玄の腹違いの弟・信友であった。
信友に潮目を読む力を買われ、興国寺城攻めに参戦することになった清安は一族衆筆頭の穴山信君(梅雪)らと共に船に乗り込み、北条方の水軍を退けることに成功する。その清安に織田の間諜が近づき「武田に関する噂を集めよ」と言って、かわらけを手渡す。
一方、信君は興国寺城攻めの戦勝の酒宴を催すが訪れたのは信友だけ。酒を酌み交わしていると、信友が懐から4分の1ほど割れた杯を取り出した。それは信君の弟の形見であるかわらけの破片とぴたりと合い、「義信 殺すべし――」の文字が読み取れた。
圧倒的な強さを誇った武田を裏切った2人の男を描く歴史長編小説。
(講談社 1650円+税)