放射能の健康被害を無視して進む東京五輪

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 開催まで約10カ月の今になって、マラソン競技などの場所で揉めている東京五輪。しかし、暑さ以上に重大な、福島原発事故による放射能の問題について、忘れている人も多いのではないか。

 東京五輪の危険を訴える市民の会編著「東京五輪がもたらす危険」(緑風出版 1800円+税)は、医師や科学者、避難者たちによる警告の書。アスリートや観客にもたらす放射能被曝の危険性について、改めて詳述している。原発事故で放出された放射性物質は「ガラス状不溶性放射性粒子」と呼ばれ、一個吸引しただけでも4500ベクレル相当のリスクになるといわれている。つまり五輪開催中の短期間の滞在でも危険は避けられず、生涯にわたって健康リスクを背負うことになると本書。また、野球とソフトボールの会場となる福島あづま球場の放射線量は、セシウム137ベースで最大6176ベクレルの土壌汚染があることや、東京と関東圏の水道水中の放射性セシウムを吸着フィルターで測定すると、5カ月で最高908ベクレルという高い値となることなども明らかにしている。

 政府は今、福島原発で100万トンもたまっているとされるトリチウム汚染水を海洋投棄しようとしている。しかし、排出された汚染水は沿岸で北向きに流れた後、沖合で親潮にのり南方向に流れ東京圏に近づくとされている。トリチウム汚染水は塩水よりも軽いため海水表面に広がり、上昇気流に巻き上げられて雨となり降り注ぐ恐れもある。もし五輪前に汚染水が放出され、関東圏を台風が通過しようものなら、日本国民はもちろん、世界のアスリートや観光客も放射能汚染させることになると本書は訴える。

 いま一度、東京五輪の是非について考えるべきではないか。

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