「『ネコひねり問題』を超一流の科学者たちが全力で考えてみた」グレゴリー・J・グバー著 水谷淳訳
猫は高い所から落ちると、最初にどんな姿勢であっても必ず足から着地する。この特異な能力は、どのようなメカニズムによって成り立っているのか──この「ネコひねり問題」を巡って何百年もの間、科学者たちがかまびすしい議論を重ねてきた。本書はネコひねり問題がどのように科学と関わってきたかを、物理学を中心に、写真術、神経科学、ロボット工学など多岐の分野にわたって描いていく。
猫の落下に最初に科学的な興味を示したのは、電磁気の「マクスウェルの方程式」で有名な物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェル。マクスウェルに続いて何人かの物理学者がこの謎の解明に挑んだが、彼らの説明は、あおむけになった猫が落下する過程で背中を反らして重心が上に移動することで反転するというものだった。
しかしその後、この説明は力学の法則と矛盾しているとして退けられ、「タック・アンド・ターン」説が登場。後肢を伸ばすと同時に前肢を折りたたむ(タック)ことで回転が容易になるというもの。続いて「ベンド・アンド・ツイスト」という上半身と下半身を別々にひねって回転を促すというモデルが提示され、現時点ではこのモデルが支持されている。
この過程において、猫の動きを正確に知るために貢献したのは写真術で、本書では草創期の写真術から高速写真術を発明するに至る経緯が詳述されている。また「地球の自転」というネコひねりと関係のない事象がどう関係するのか、さらには宇宙飛行士の体勢の問題からネコひねりを再現できるロボットを開発する話まで、かなり高度な内容だが、著者の軽快な筆はさまざまな話題を縦横無尽に駆け巡る。
本書を読むと、つい自宅の猫で実験したくなる人もいるかもしれないが、愛猫家の著者は最初にクギを刺している。
「どうか猫を高い所から落とさないでほしい!」 <狸>
(ダイヤモンド社 1980円)