「歴史の中の多様な『性』」三橋順子著

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 近年、性的マイノリティーの人権運動の波が日本にも及び、LGBTや多様性(ダイバーシティー)といった言葉が頻出するようになり、社会的なテーマとなってきた。こうした動きは日本の性的多様性に対する考え方がようやく世界に追いついた証しのように思えるが、著者はそうではなく、性的多様性はすでに日本の歴史の中にあるのだという。

 前近代において、日本は世界に冠たる「男色大国」であり、歌舞伎に代表されるトランスジェンダー(性別越境)の文化が高度に発達した社会を築いてきた。これは日本だけでなく、アジア・パシフィックにも土着的なトランスジェンダーの文化が残っている。つまり、性的な多様性は人間の文化に必然的に伴っていると考えることができる。むしろ、同性間の性的関係や異性装を厳格に禁じるキリスト教を中心とする欧米の方が性的多様性の面では特殊だといえるのだ。

 本書は、日本の性愛文化の歴史をたどり直し、併せてインド・中国・朝鮮半島のトランスジェンダー文化について概観し、西洋文化主導とは違う多様な「性」の在り方を捉えようというもの。

 日本人の性に関する旧来の思い込みを正してくれるいくつもの知見が紹介され刺激的。たとえば男色=男性同性愛というのが通例だが、前近代の日本の男色とは、年長者と年少者という絶対的区分にのっとったもので、年長者が能動、年少者が受動という役割も厳格に決められている。これは近代以降の成人男性同士の同性愛とは区別されるべきものだという。

 また、最近ゲイの男性が登場する映画やテレビが多くなってきたのに対し、なぜレズビアンの女性が登場することが極端に少ないのかという指摘も、大いに考えさせられる。

 著者自身、日本で初のトランスジェンダーの大学教員の一人であり、各国の性的マイノリティーたちとの交流も多く、学術書を超えた広々とした視界を提供してくれる。 〈狸〉

(岩波書店 3410円)

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