予測不能な時代のヒント 地球と自然の本特集
「アッテンボロー 生命・地球・未来」デイヴィッド・アッテンボロー著 黒輪篤嗣訳
新しい年が始まってまもなく1カ月。しかし、戦争に疫病、そして地球温暖化と、課題は新たに次々と積み重なる一方で、解決も出口も見えてこない。政治に期待できない今、自然科学にヒントを求めてみてはどうだろうか。示唆に富んだおすすめの自然科学系5冊を紹介する。
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自然番組のプレゼンターとして、世界中の生き物の世界に触れ、その多様性や神秘さを伝えてきた著者が、その体験を振り返りながら、人類による地球の環境破壊の現実を突きつける警世の書。
1952年にテレビ局に入社し、自然史番組のプロデュースを担当、やがて自らも出演するようになった。初めて訪ねたアフリカの大平原「セレンゲティ」や、ルワンダのマウンテンゴリラ親子とのふれあいなど、自然の豊かさに魅了される一方で、クジラの乱獲による減少やサンゴの白化現象など、それらが急激に侵されている現実を目の当たりにする。
現在、サンゴはおよそ半分に、マングローブ林や藻場も30%以上減少。森林では毎年150億本以上の木が切り倒され、世界全体の昆虫の数はこの30年で4分の1に、そして地球上の全哺乳類の量の96%が人間と家畜で占められているなどの事実を報告。
どうすれば自然の回復を促進し地球の安定を取り戻せるか、その方途を示す。
(東洋経済新報社 2420円)
「超圧縮 地球生物全史」ヘンリー・ジー著、竹内薫訳
誕生から6億~8億年後の地球は、中心核からの熱で煮えたぎる鍋のようだった。そんな地球の海の奥深く、海底の割れ目から高温の水が超高圧でほとばしる場所で最初の生命が誕生する。
この最古の生き物は、岩のあいだの微細なすき間にかぶさる汚い薄膜にすぎなかった。薄膜はエネルギーの生成に磨きをかけ、そのエネルギーを使って丸い泡のような形になった。最初は偶然だったが、次第に泡が増え始め、新しい世代の泡がその姿をコピーして引き継いでいくようになった。
そして37億年前、生命は深海の暗闇から太陽の光に照らされた水の表面へと進出。何兆もの生き物が大群となり「礁」をつくり始める。やがて、その生命体は地上で粘液と堆積物が層になったクッション状の塚を築く。しかし、約24億~21億年前にかけ、生命は終末的な災害に見舞われる。
地球の原初から現在まで、営々と続く生命の誕生と進化、絶滅の歴史を一冊に凝縮して解き明かしたサイエンス本。
(ダイヤモンド社 2200円)
「ジオ・ヒストリア」茂木誠著
予備校の世界史講師が数百、数千年単位の気候変動(長期変動)と歴史の関係について解き明かした面白テキスト。
まずは太陽と地球の関係から。数十万年にわたって狩猟採集の暮らしを続けてきた人類は太陽の位置と季節の変化との関係に敏感だった。太陽の運行を知るために日時計を考案。冬至、春分、夏至、秋分を示すこの種の日時計を中心とした巨石記念物が、ストーンサークルと呼ばれる遺跡だという。
秋田県鹿角市の大湯環状列石や青森県の三内丸山遺跡の物見やぐらとされる柱穴、そしてイギリスのストーンヘンジが、古代の天文台だったことも明らかにしていく。
ほかにも、太陽暦の発明のもとになった特定の天体が太陽と同時に昇る現象「ヒライアカル・ライジング」や、縄文時代に東日本に人口が集中するきっかけとなった7300年前の鬼界カルデラの大噴火、フランス革命の遠因となった浅間山の噴火など、天文学、地球物理学、気象学などを駆使して天体と気候変動と人類史の関係を解説。
(笠間書院 1760円)
「地球、この複雑なる惑星に暮らすこと」養老孟司、ヤマザキマリ著
無類の昆虫好きの2人が縦横無尽に語り合う生物・文明論。
話題は養老氏が今夢中になっているゾウムシから、中東や古代ローマ帝国の水問題に転じたかと思えば、いつしか都市のドブネズミへ。かつては大学の実験室などでも見かけたが、いまはそこらじゅうがピカピカに。そうして身辺の菌を殺してしまったことで人間の免疫系が訓練不足となり、アレルギーや自閉症が増えていると指摘。
一方のヤマザキ氏は、「人間は多様であり、何もかも共有することはできない、ということを想像する力が怠惰になってきている」と語る。昆虫という属性は同じでもゲンゴロウにミツバチのような暮らし方をしろ、と強いても無理なのと同じ原則だと思うのだけど、と。斬新なこと、自分の考えと違うことを認めたくない傾向が世界全体で強くなっていると危惧する。
ほかにもトビケラの巣の美しさからアートについて語るなど、虫の世界を手掛かりに地球と人間の変質を問いかける。
(文藝春秋 1650円)
「気候変動と環境危機」グレタ・トゥーンベリ編著 東郷えりか訳
科学者や識者がそれぞれ専門知識から、地球が置かれている現状を教えるリポート集。
環境活動家グレタさんは、一部の国や地域がCO2の排出量を減らしたとする報告に疑問を投げかける。工場移転や排出量売買で統計からはずしても世界全体の排出量は現実に増えていると指摘。国際的な目標に従うなら、CO2の排出量は1人当たり年間約1トンに抑える必要があるが、スウェーデンでは1人当たり9トン、アメリカでは17.1トンというのが現実だ。
なぜCO2が問題なのか。研究者のジーク・ハウスファザー氏によると、CO2はほかの温室効果ガスと異なり、陸と海の炭素吸収源に取り込まれないかぎり、大気中に居座るからだ。今日、私たちが排出したCO2の20%は、今後1万年間、大気中に居座る。つまり、大気中のCO2は排出量をゼロに近づけない限り増え続けるのだ。CO2が地球に与える影響から、水・食糧不足やプラスチックなどの廃棄物、再生可能エネルギーなど、相互に密接にかかわるそれぞれの危機とその関係を解説。その上で我々は何から取り組むべきかを示す。
(河出書房新社 4180円)