80年代を背景に描く伝説のシューズ誕生の奮闘記
先週末封切りの「AIR/エア」。バスケシューズの「エア・ジョーダン」を開発したナイキの社員たちの実名の奮闘記、というと企業PRみたいだが、冒頭のタイトルバックでおや? と思うことがあった。80年代という時代背景を描くために当時のCMやドラマの断片をコラージュした映像に既視感があったのだ。
しばらく考えて思い当たった。「アメリカの朝」。84年の大統領選で当時現職のレーガンが再選をめざしたキャンペーンCMに通じるノスタルジーにあふれていたからだ。
アメリカで大統領とノスタルジーといえば長らくケネディだった。暗殺に倒れた若き大統領とその時代のイメージは、ベトナム戦争前の「幸福だったアメリカ」の象徴とされた。しかし当時を知る世代もいまや高齢者。代わってレーガン時代の80年代生まれが、社会の基軸を担う40代に続々と達している。
実際、映画はデジタル映像の精細度をわざと下げた退色感でノスタルジーを演出。主演のマット・デイモンと監督で脇役出演のベン・アフレックも、ともに10代で80年代を過ごしている。ハリウッドでもリベラル派で知られた彼らが、企業のナラティブ広告みたいな趣向を使ってレーガン時代のアメリカを回顧する映画を製作する。世相の移ろいというものだろうか。
善本喜一郎著「東京タイムスリップ1984⇔2021」(河出書房新社 2002円)は80年代に「平凡パンチ」の専属として出発したカメラマンが往時と現在を対照させた写真集だ。写真学校を出てまもない若者が盛り場をモノクロでスナップし、数十年後のコロナ禍、同じ場所をカラーで再びスナップした。対比の妙は言葉より実際に見るにしくはなし。個人的には街頭から手書きの看板文字が見られなくなって、つるんとしたいまどきの若者みたいな街の顔になったのだなあと思ったことである。〈生井英考〉