モンゴルのアダルトショップで堅物女子がアルバイト
「セールス・ガールの考現学」
映画にとってグローバル化なんてものは百害あって一利なし。だが、ときには例外があるのも世の常だ。今週末封切りのモンゴル映画「セールス・ガールの考現学」はその好例だろう。
モンゴル映画というと日本での公開が少なく、草原に羊の群れにゲルで暮らす民……という紋切り型のイメージに偏るのは致し方ないところだが、本作の舞台はウランバートルの怪しげな一帯にあるアダルトグッズの店。
しかも主人公はひょんなことからその店でバイトすることになった堅物の女子学生。実はこの時点でもう、逆の意味で警戒心が強まる。通念をひっくり返す面白さというのは、実はステレオタイプに依存しているに過ぎない場合が多いからだ。
しかし、センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督の腕は小手先ではなかった。秘訣は主演の女優2人の演出。主役のバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルは高校1年生みたいな童顔だが、顔立ちは昔の多部未華子そっくり。つまり地味な優等生タイプの小娘がアダルトショップでバイトという趣向の変化を描くわけだ。他方、相手役のエンフトール・オィドブジャムツはわけありの人生を送った謎めいた店のオーナーを演じ、ノワール映画ばりの陰影で好演。このふたりのカラミとアダルトショップの珍妙な光景を組み合わせることで、単なる常識の転倒劇とは違う仕上がりになった。「真面目さが笑いを誘い、喜びのうちに苦みが混じる」人生の悲喜劇が、グローバルになった映画言語を通して描かれるのである。
ちなみにアダルトショップは実用性以上にほとばしる性のイマジネーションこそ命。アラン・コルバン著「処女崇拝の系譜」(藤原書店 2420円)は西洋芸術史における「けがれなき処女」像を支えた想像力を達意の語りで説き明かした好著である。 〈生井英考〉