「超人ナイチンゲール」栗原康著
「超人ナイチンゲール」栗原康著
1820年、スーパー金持ちのイギリス人両親の元、次女として生まれた愛称フローは、頭脳明晰で動物好きな一方、上流社会の虚栄に満ちた生活に疑問を持つ女の子へと育つ。そんな16歳のある日、フローは突然神の声を聞く。神に仕えよと命じられたのだ。
22歳で近隣村の貧困救済に携わったフローは看護の道を決意。家族が反対する中、かつて社交界で知り合った男爵や医学博士、経済学者たちの応援を受け、ドイツの看護学校で実技経験を積み看護師の道を歩み始める──。誰もがその名を知る、白衣の天使ナイチンゲール伝。と言っても鬼才アナキストの著者が紡ぐそれは異色で、当時、卑しい職業とのレッテルがあった看護師の仕事を変えるため改革に挑み続けたナイチンゲールの姿を描き出している。
患者に対してケアは手厚いものの、治った者はすぐに追い出す合理的な面があったという。また看護団を率いクリミアに赴く際の権限の所在を明確にし、アタマの固い陸軍省とやりあうのに、現代の権力の肝である近代統計学を武器に説得。上流階級のコネと金も大いに活用した行動力は痛快でもある。
「近代的な個人」を超え、「永遠の今」を生きた神秘主義者ナイチンゲールのあまりにも大きな功績に、改めて驚かされる。
(医学書院 2200円)