震災で亡くなった外国人たちの「生」の物語をたどる

公開日: 更新日:

「涙にも国籍はあるのでしょうか」三浦英之著

 東日本大震災から13年。朝日新聞記者でルポライターの著者は、震災直後から津波被害の最前線を取材してきたが、2022年、震災で亡くなった外国人の数を政府も自治体も把握していないことを知った。

 亡くなったのは誰なのか。なぜ日本の東北地方で暮らし、津波に巻き込まれたのか。残された人はその死をどう受け止めたのか。津波で亡くなった外国人一人一人の「生」の物語をたどろうと、新たに取材を始めた。

 アメリカ人女性、テイラー・アンダーソンは外国語指導助手として宮城県石巻市に赴任、24歳で被災した。生前、「米国と日本の架け橋になりたい」と夢を語っていた。

 中国人の母の連れ子として来日した青年、郭偉励は建設用の足場設営の会社で働いていた。母を津波で亡くし天涯孤独の身になったとき、仲間の職人たちは言った。

「おまえは1人じゃないぞ!」

 被災者の中には、故国に娘を残して出稼ぎに来ていたフィリピン人女性がいた。トラックを運転中に被災したパキスタン人男性がいた。なんとか教会に戻ろうとする途上で命を落としたカナダ人神父がいた。それぞれの生と死の軌跡がたどられる。亡くなった人たちの物語は「死」で終わってはいなかった。国籍を超えて悲しみが共有され、宗教の違いを問わずに連帯が生まれ、生きる意味を失った人に希望の光を投げかけた。

 被災者の取材を長く続けてきた著者が、打ちのめされるようにして学んだことがあるという。それは「技術があっても、取材者としての熱量があっても『伝えることができない類いの悲しみ』がある」ということだった。

 そうであっても、この作品の読者は涙を流すだろう。悲しいからだけではない。人のあたたかさ、強さに打たれるからだ。 (新潮社 1925円)

【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    五輪もスポーツも「興味なし」ミエミエ…シラケる番組MC・コメンテーターたち

  2. 2

    中日・根尾昂は責められない。定石を度外視、一貫性も覚悟もない指揮官の大問題会員限定記事

  3. 3

    フワちゃん芸能界追放へ…やす子への暴言炎上は鎮火せず SNSの“NGフレーズ”が致命傷

  4. 4

    選手村は乱交の温床、衝撃の体験談…今大会コンドーム配布予定数は男性用20万個、女性用2万個!

  5. 5

    中丸雄一に"共演者キラー"の横顔も…「シューイチ」で妻の笹崎里菜アナも有名女優もゲット

  1. 6

    「マスク論争」に終止符? 新たなエビデンスが英国医師会誌で報告される

  2. 7

    川合俊一らと男子バレー“御三家”だった井上謙さんは「発達障害の息子のおかげで学んだ」

  3. 8

    やす子「自衛隊時代のパワハラ告発報道」でも好感度が揺らがぬワケ…毒は吐くけど無駄にキレない

  4. 9

    中丸雄一「まじっすか不倫」で謹慎!なぜ芸能人は“アパホテル”が好きなのか…密会で利用する4つの理由

  5. 10

    “新婚の路上ナンパ師”中丸雄一の痛~いオジサンぶり 「お叱りを受け止める」表明で会見は?