著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

twililight(トワイライライト・三軒茶屋)開放的な店内に芸術から文化人類学まで5500冊

公開日: 更新日:

 1階はパン屋さん、2階はカフェがあるビルの3階へ階段を上がる。ドアを開き、「開放的」と感じたのは窓が広いからか、面陳列が多いからか。

「2階でカフェをやっているのが友人なんです。その友人から2021年12月、『上の階が空いたんだけど、どう?』と電話がかかってきたのが始まりでした」と店主の熊谷充紘さん(42)。

「当時住んでいた愛知県から見に来て翌月に契約。3カ月後の22年3月11日にオープンさせてしまった」って。もともと本屋さんだったんです?

「いえ、もともとはリクルートで雑誌作りを。退職が震災(3.11)の日。その後は出版イベントなどを各地でやってきました。せっかくだし、オープンは(22年)3月11日にしたんです」 

柴崎友香や柴田元幸らによるtwililightレーベルも

 ギャラリーもある63平方メートルの店内に5500冊。ほとんどが新刊だ。どういう選書ですか?

「“私とあなた”が好きな偏った本って感じです(笑)」と熊谷さん。海外文学、仕事、ジェンダー、ケア、哲学、芸術、紛争……。社会学系、文化人類学系のひとひねりある本が現れる店内を一巡し、私も「あなた」のうちのひとりだわと。ここ店内でも屋上でもお茶をできるが、6時間滞在の人もいるとか。

「中学生の頃の私を閉塞感から救ってくれた本」とポール・オースターの「ムーン・パレス」、そして「宇宙人の部屋」(小指著)、「ゆうれい犬と街散歩」(中村一般著)を紹介してくれる熊谷さんの、熱くも冷めてもいない語りが好感度大。

 レジ近くに、twililightレーベルの冊子や本がずらりと並んでいた。柴崎友香がコロナ禍にROVO(ロックバンド)のことを書いた「宇宙の日」、コロナ禍のニューヨークでバリー・ユアグローいわく「正気を保つために」書き、柴田元幸が訳した「ボッティチェリ」。ビッグネームの作家、翻訳家によるその2冊を皮切りに、熊谷さんは12冊も世に出しているのだ。店名と同じ「twililight」タイトルを発見。

「三軒茶屋を舞台に、twililightが出てくる恋愛小説です。開店1年の頃、続けられるかどうか危機感があって、もし店がなくなっても本なら残せると、畑野智美さんに依頼し、書いてもらったんです」

 やばいやばい。買いたい本が目白押しすぎる。

◆世田谷区太子堂4-28-10 鈴木ビル3階・屋上/東急田園都市線三軒茶屋駅から徒歩4分/12~21時/火曜と第1.3水曜休み

ウチのおすすめ本

「だめをだいじょぶにしていく日々だよ」きくちゆみこ著、twililight2090円

〈「自律」「故郷」「友だち」「完璧さ」「うつくしさ」「やさしさ」。これまでその大きさに圧倒されて、ためらいなく語ることもできなかった言葉を、自分なりに少しずつほぐし、ほどいていく〉(あとがきから要約)

「著者は、ジンを定期発行し、シュタイナー教育を学んできた人。初出は、twililightのウェブマガジン連載。生きづらかった彼女が書くことによって変わっていくのが分かるエッセーです」

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