「廷臣たちの英国王室」ヴァレンタイン・ロウ著 保科京子訳

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「廷臣たちの英国王室」ヴァレンタイン・ロウ著 保科京子訳

 英国王室には、ロイヤルファミリーを公私ともに陰で支える廷臣がいる。バッキンガム宮殿やケンジントン宮殿などの宮廷で働く秘書官や報道官たちだが、その心情や振る舞いは廷臣と呼ぶのがふさわしい。表舞台に顔を見せない廷臣に光を当て、彼らの証言から王室の真相とロイヤルファミリーの素顔に迫ったノンフィクション。

 エリザベスの結婚、チャールズとダイアナの出会いと別れ、ウィリアムとハリーの成長、エリザベスの崩御とチャールズの即位、ハリーとメーガンの王室離脱……。そのとき王室内部で誰が何を語り、どう動いたのかを詳細に伝えている。

 著者は長きにわたって英国王室を取材してきたジャーナリスト。歴代の廷臣から直接聞いた逸話の数々から、ロイヤルファミリーと廷臣の関係が見えてくる。たとえば、皇太子時代のチャールズに仕えた廷臣が言うには、彼は強い意志を持った人物で、スタッフは高い勤労意欲が求められた。皇太子は人使いが荒い上司だったようだ。

 ウィリアムとハリー、2人の王子がジーンズとサンダルばきの男の子だったころから、廷臣はきちんとしたドレスコードで接し、彼らに「自分は他の人と違う」ことを認識させようと努めた。廷臣は若いロイヤルファミリーの教育係でもあるのだ。

 ある廷臣はこう語っている。「もし彼らが何かばかげたことをしでかしたら、それは我々の責任です」。あらゆる王室の出来事の陰で必ず廷臣が動いている。外からは見えない力で王室を動かしている。彼らは主君の言いなりになる従僕ではないし、主君とどんなに打ち解けていても友人ではない。両者の関係は複雑で微妙だ。

 廷臣の視点に立つと、世界を騒がせた王室スキャンダルが別の様相を呈する。ロイヤルファミリーの人間くさいドラマも見えてくる。生きた現代英国王室史としても読める大作。

(作品社 3960円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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