山内惠介さん「母親の腕の中で子守歌のように聴いて育った」美空ひばりとの出会い
星野哲郎先生から「君のような新人を待っていたんだ」と
裏声まで……とみんな驚いていたけど、僕は予想通りって(笑)。歌詞は理解できないけど、悲しい歌だということはわかりました。母の腕の中で子守歌のように聴いて自然と覚えて、歌えた感じでしたね。
「みだれ髪」は音域が13度あります。当時ひばりさんはご病気をなさっていましたが、作曲家の船村徹先生には“歌いやすい、やさしい歌にはしないで”とおっしゃって、ひばりさんが普段は使わない高音も入っている曲になったそうです。最後まで挑戦されていたんですね。
星野哲郎先生がお書きになった歌詞もすてきですね。「涙をしぼる」の1番もいいけど、2番の捨てた人の幸せを祈る「性かなし 辛らや重たや わが恋ながら」も。3番の春は二重に巻いた帯が秋には三重に巻いてもまだ余るなんてたった2行ですべてを表現している。芸術そのものだと思います。
僕が言うのはおこがましいですけど、ひばりさんにとっては執念の歌だと思います。87年に「みだれ髪」を発売する前に、大きな病気をされています。それでも、演歌、歌謡界をこの一曲で盛り上げたい、活性化させたいという熱い思いを感じます。自分の命を燃やしてもう一つ花火を打ち上げたい。そんな作品だったのではないでしょうか。
僕のデビュー曲は星野先生が作詞してくださった「霧情」です。僕が星野先生が作詞した「みだれ髪」を歌っていたことを知ったディレクターが星野先生にお願いしてできた曲です。「黒髪指に 巻きつけて 霧の波止場をさまよえば」で始まりますが、「みだれ髪」を彷彿させる歌を作ってくださいました。先生は「ひばりさんの歌を歌って育ったというから、なおのことうれしい。君のような新人を待っていたんだよ」と喜んでくださった。僕がデビューできたのはまさに「みだれ髪」が結んでくれた縁。僕を演歌の世界に導いてくれた歌だと思います。
紅白に初出場することができた2015年に初めてひばりさんの青葉台のご自宅に伺い、ご子息の(加藤)和也さんと対談させていただきました。憧れの方のご自宅にお邪魔して仏間に案内していただき、手を合わせ、「やっとお会いできました。今年は紅白に出場できるように頑張ります」とお話ししました。