がんと共生する時代がそこに 転移は「心臓ホルモン」で防げる
肺や乳腺など、あらゆる臓器にがんができるのに、なぜ心臓にはがんができないのか? がんに関心のある人なら、一度はこんな疑問を抱いたことがあるはずだ。そのメカニズムを解明し、がん転移の予防に役立てようとしているのが、国立循環器病研究センター研究所(大阪・吹田市)の野尻崇・生化学部ペプチド創薬研究室長だ。カギを握るのは心臓から分泌されるホルモンである「心房性ナトリウム利尿ペプチド」(ANP)。その血管保護作用に目をつけ、さまざまな種類のがん転移の予防・抑制につなげようというのだ。野尻室長に聞いた。
「ANPとは主として心臓の心房で合成・貯蓄され、血液中に分泌されるホルモンのこと。水とナトリウムをおしっことして排泄し、血管を拡張するなど血圧や体液を調整する働きがあります」
ANPは寒川賢治氏(同研究所所長)ら日本人研究者が発見。1995年から急性心不全の薬(商品名ハンプ)など心臓病の薬として広く使われている。
このANPにがん転移を防ぐ働きがあるというのは驚きだが、わかったのは偶然からだという。