“捕らわれの身”と感じている友人が息子の話になると笑顔に
B病院での病室は3階の4人部屋で、ベッドは窓際でした。夜、窓からは大小のビル群と窓の明かりが見え、ビルの下には線路が通っていました。走ってくる電車の窓から乗客の姿が見えます。一人一人の表情までは分かりませんが、立っている人、座っている人の影は確認できました。そんな景色を目にしながら、Rさんは考えたそうです。
「家路につくあの人たちは、死からは遠い“安全圏”の人だ。自分は死に近い捕らわれの身……。何も悪いことはしていないのに捕らわれの身なんだ」
朝になると、看護助手が床頭台を拭きにやって来ます。優しい医師や看護師が来てくれても、“捕らわれの身”には変わりありません。売店に行くにも検査室に行くにも、ナースステーションで許可を得ないと病室を出られないのです。
◇ ◇ ◇
朝、カーテンを開けると曇り空で、ビル群にまだ人の動きはない。
以前、手術が終わってA病院を退院した時は、病院で支払いを済ませてから建物の外へ出て、クルマが行き交うビル群の下を健康な人たちと一緒になって歩道を歩いた。空は曇っていたが、とてもまぶしく、うれしかった。