シメジのうま味を濃縮して疲労回復
キノコの旬が秋の生物学的理由
キノコは、植物ではない。もちろん動物でもない。菌類という第三の生物。独自の進化を遂げた。動けないけど、光合成もできない。他者に寄生するしかない。
しかし、ただ乗りしているわけではなく、自然界の「分解者」として重要な役割を果たす。とくに他の生物が分解できない木質(リグニン)が分解できる。なので樹木が自然に戻るのに役立つ。キノコが寄生する樹木はキノコによって好みがある。うま味が濃いホンシメジはコナラやアカマツに(これが「香りマツタケ味シメジ」のシメジ)、より普及品のブナシメジはブナなどの広葉樹につく。
キノコの旬は秋、の生物学的理由がある。ふだんはキノコは菌糸を伸ばして落ち葉の下や木の裏に隠れている。気温が下がると(昼間と夜の気温差が大きくなると)、これを察知し、傘(子実体)を作る。
つまりヒト以外の生物にとって情報とはインターネットのことではなく、情報の「変化」の方が情報なのだ。胞子は、動物の精子や卵子と同じくn体。胞子を拡散して、ニッチ(隙間)を広げる。胞子は耐熱性、耐乾燥性にすぐれて生き延びる。自然界でパートナー胞子と出あってn+n体となり、キノコ(子実体)となる。遺伝子の混合。この点は動物や植物と同じ有性生殖なのである。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
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