粉山椒は鮮烈な香りの石臼挽きを デトックス効果が
辛味成分のサンショオールに消化促進作用
山椒と聞いただけで、あの香ばしい香りを感じるとともにとても懐かしい思いにとらわれる。
生物学者になるずっと前、私は昆虫少年だった。いつも近所の垣根や植え込みを回って山椒を探していた。山椒はアゲハチョウの幼虫の食草だからである。
山椒の葉は可憐で美しい。そこに黄金の粒のような卵が産みつけられている。私はそれをそっと持ち帰り大切に育てた。さなぎから蝶がこぼれ出てくる様子は自然の奇跡といってよかった。アゲハチョウは山椒の他に、ミカンやカラタチの葉っぱも食べる。実は、これらは同じ仲間だからである。山椒はミカン科で、あの香ばしい匂いは柑橘系。蝶もそれにひかれているのだ。
さて、私たちがうな重にかける粉山椒は熟した実の果皮を乾燥させて粉にしたもの。辛味成分はサンショオールと呼ばれる特有のアルコール。ピリピリと辛いだけでなく、舌がじ~んとしびれたような刺激を受けるのが粉山椒の特性だが、これはサンショオールに局所麻酔作用があるためである。胃腸を刺激し、消化活動を促進するとされる。さわやかな香り成分はシトラネロール(シトラス=柑橘系)。残念ながら山椒の有効成分は空気にふれると寿命が短く日持ちがしない。これが同じ香辛料でも唐辛子(カプサイシン)とは違うところ。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
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