野菜の長さを切り揃えて酸化防止 調味料も最小限で済む
旬を食す(4)水菜
水菜は江戸時代前期から京都で栽培されていた京野菜のひとつで、「京菜」と呼ばれることもあります。
冬場は夏に比べて旬の野菜が不足します。そのため、いまが旬の水菜は寒い時季を乗り切るための野菜として重宝されてきたのですが、この京野菜にはそれだけの栄養も含まれています。
整腸作用のある食物繊維はもちろん、抗酸化作用のあるビタミンCやβカロテン、塩分の取り過ぎを調整するカリウムなどが豊富なのです。
今回は豚バラ肉との焼きうどんと、かつお節とのサラダの2品です。どちらも火を通さないのはシャキシャキとしたみずみずしい食感を楽しんでいただきたいからです。
もうひとつのポイントは水菜を含めた野菜の切り方です。水菜はもちろん、焼きうどんに入れるピーマンも長さを揃えて切ることです。
特にピーマンは天地を落として縦半分に。白い筋も丁寧に切り取り、長方形にしてから細切りにします。そうすることで均一に切り揃えられるのです。
野菜の長さを切り揃える目的は、仕上がりを美しくするだけではありません。口に入れたときの食感が良くなる上、味がなじみやすくなります。結果として使う調味料は最小限で済むので、塩分を抑えられ、素材そのもののおいしさを味わえるのです。
■水菜と豚バラ肉との焼きうどん
《材料》
◎水菜 4分の1束(軸下を除き、長さ4センチに切り揃える=写真)
◎ゴマ油 大さじ1
◎ニンニク(千切り) 小さじ1
◎豚バラ肉 薄切り200グラムを3センチ大に
◎ネギ 4分の1本(縦半分に切り、芯を除いて斜め薄切り)
◎茹でうどん 2玉
◎酒 大さじ2、大さじ1
◎ナンプラー 大さじ1
◎白胡椒 少々
◎ピーマン 1個(天地を落として縦半分に。芯、種、ワタを除き、縦に5ミリ幅で切る)
《作り方》
中華鍋にゴマ油とニンニクを合わせて、中火で香味が出るまで炒める。豚バラ肉とネギを入れ、合わせておいた茹でうどんと酒(大さじ2)を加えて炒める。ナンプラー、酒(大さじ1)、白胡椒を加え、味を調える。ピーマンを入れ、さっと炒めて火を切り、水菜を合わせる。
■かつお節とのサラダ
水菜2分の1束の軸下を落とし、長さ4センチに切り、柚子胡椒小さじ2分の1、オリーブオイル大さじ2、米酢大さじ1と2分の1、薄口醤油大さじ1を合わせたドレッシングで和え、削ったかつお節を2分の1カップほど合わせる。よくまぜていただく。
▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。
歯応えと芳香が特徴の伝統野菜に食欲刺激、殺菌作用
30年ほども前のこと。私は米国で単身、研究修業をしていた。精神的にも経済的にも余裕がなく、食べ物もありつけさえすればよく、大学のカフェテリアでピザやハンバーガーばかり食べていた。
栄養が偏るのを避けるため、できるだけ野菜も食べようと心がけていたのだが、サラダバーにある野菜は文字どおりの生野菜。ぶつ切りにしたニンジンやセロリ、ブロッコリーがごろごろ置いてあるだけ。味気ないことこのうえなかった。日本の食卓のように家族で熱々のお鍋を囲み、そこにさっと水菜を入れて、シャキシャキの食感をポン酢で味わいたいと心から願った。
水菜は、江戸時代、田んぼのあぜ道に沿った水路の清流で育てられたからその名があるという。ギザギザの葉っぱの歯応えとツンとした芳香が特徴だが、それは水菜がアブラナやカラシナの親戚だから。ビタミンA、C、カルシウムを豊富に含み、香気成分のアリルイソチオシアネートは食欲刺激、唾液分泌促進作用があり、消臭作用や殺菌作用も併せ持つ(なので、鍋物の格好の友となる)。
最近は、この食感を生かして、今回のメニューのように生のままサラダに入れて食されることも多い。日本の食文化として、このような伝統野菜の繊細な味を大切にしたいもの。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。