ニラの春の甘味や栄養分を逃がさないコツ
旬の恵みを味わう(5)ニラ
ニラはいまが旬。軟らかく、香りが強く、甘味も豊富です。
わたしたちが通常ニラと呼んでいるのは葉ニラのこと。他に黄ニラ、花ニラがありますが、今回は葉ニラを使って豚肉、キムチとの炒め物、おひたしの2品にします。
しゃきしゃきとした食感や、うま味や甘味を逃さないポイントがいくつかあります。
ひとつはニラを切りそろえることです。これはニラに限りません。野菜を切るときに長さや大きさが均一であれば、まんべんなく火が通りますから、食感もバツグンによくなります。見た目もきれいです。
もうひとつは火の通し方です。火を通し過ぎますと、食感を損ないますし、甘味も飛んでしまいます。
あとは茹でたニラをギュッと絞らないこと。強く絞り過ぎると、うま味成分を逃してしまいます。特におひたしを作る際は気を付けてください。
ニラはおいしいだけでなく、栄養面でも優秀です。
まずβカロテンが豊富です。同様に含まれているビタミンEとともに抗酸化作用や、糖化防止作用があります。においのもとであるアリシンには強い殺菌作用があり、整腸作用のある食物繊維も豊富です。
火を通し過ぎたり、強く絞り過ぎたりしてしまえば、豊富な栄養も台無しです。ほんのわずかなひと手間、少しばかりの気遣いをすることで春のうま味と豊富な栄養分をいただけるのです。
■豚キムチとの炒め物
《材料》
◎ニラ 1束を長さ4センチに切りそろえる
◎豚肩ロースの薄切り 300グラムを一口大に切る
◎塩 少々
◎こしょう 少々
◎薄力粉 適宜
◎ごま油 適宜
◎キムチ 2分の1カップを2センチ大に切る
◎長ネギ 2分の1本の芯を除いて斜め薄切り
◎酒 大さじ2
◎醤油 大さじ1
《作り方》
豚肉に塩、こしょうをふったら、薄力粉を茶こしを通して全体にまぶしておく。フライパンにごま油を熱し、キムチをさっと炒め、香味がたったら豚肉を加えて強火に。長ネギを加え、味を見て酒、醤油、こしょうで調える。汁気がなくなったらニラを加えて火を切り(写真)、余熱でさっと混ぜる。
■おひたし
沸騰した湯に塩を加えて、ニラ1束をさっと湯通し程度に茹でたら、手早く冷水に取る。軽く水気を絞り、長さ4センチに切りそろえる。えのきだけ2分の1パックは石づきを除いて半分に切り、ほぐしておく。濃いめに取ったダシ1カップを沸かし、酒大さじ2、塩小さじ2分の1を加え、えのきだけを入れてさっと火を通す。薄口醤油大さじ1を加えて火を切り、ペーパータオルで水気を抑えたニラを混ぜる。
▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。
におい成分のアリシンは免疫機能を高めるビタミンB1の吸収を助ける
ニラは、ニンニクの親戚の植物。どちらも学名をアリウムといい、その名にちなんだアリシンという揮発成分を発する。これがあの特有の臭み成分で、硫黄を含む化合物。火山ガスと一緒で、生物にとって嫌なにおいであり、本来は虫を遠ざけるために植物が準備しているものと考えられるが、なぜか人間は、この香りに引きつけられてしまう。
それは学習による効果だと思われる。ニラは、このレシピにあるように豚キムチをはじめ、レバニラ、ニラ玉など、味の濃い、おいしい料理の格好の材料である。なので私たちは、ニラのにおいをかぐと、その先に必ずうまい一品が待っていることを期待する。これがニラの誘引効果である。
ところでこのアリシンという香気成分にはすばらしい健康効果もある。豚肉には新陳代謝や免疫機能を高めるビタミンB1が豊富に含まれているが、アリシンはこのビタミンB1の吸収を画期的に高めてくれるのだ(これを製剤化したのがアリナミンである)。またアリシン単独でも殺菌・抗菌効果、抗がん効果などが研究されている。
強壮・強精効果もあるので、仏門では煩悩をかきたてるということで「葷酒山門に入るを許さず」(葷がアリシン)とされる。コロナで引きこもりがちなきょうび、ニラ料理で煩悩のひとつくらいかきたててもバチは当たるまい。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。