頭木弘樹さんは潰瘍性大腸炎で13年間入退院を繰り返し…
お見舞いでいただく本やテレビの中の人は、病気でも頑張って明るく暮らす人や立ち直って希望を見つけた立派な人ばかり。まぶしすぎて見られないんです。
そこへいくと、カフカやドストエフスキーは真っ暗で、光や希望がない。「それで何が救われるんだ?」と思う人もいるでしょうが、読んだって何も解決しないところが救いなのです。肩を貸して一緒に歩いてくれる優しさではなく、倒れたままにしておいてくれる優しさ。
暗い道で1人では怖いけれど、2人なら心強いでしょ? 古典文学は光じゃなくて、暗い道で一緒にいてくれるものだと思います。
病気からは何も学ばなくていいんじゃないかな。海で溺れた人に「ついでにアワビとってきて」と言っているようなものだから……(笑い)。
(聞き手=松永詠美子)
▽かしらぎ・ひろき 筑波大学卒業。20歳で潰瘍性大腸炎を発症し、13年間、入退院を繰り返す。代表作は編訳した「絶望名人カフカの人生論」。著書に「絶望読書」「カフカはなぜ自殺しなかったのか?」などがあり、文学紹介者としてテレビやラジオにも出演している。近著に「食べることと出すこと」「落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ」がある。