脳梗塞を予防する「左心耳」への処置が保険適用になった
そのため、どうにかして心臓手術で脳梗塞を減らす方法はないものかと考えました。欧州ではすでに脳梗塞の予防のために左心耳を処置する動きがありました。また、ほかの専門家などからさまざまなアドバイスをもらい、血栓の75~90%が形成される左心耳に行き着いたのです。左心耳は、いわば盲腸と同じようなもので、取り除いてしまっても問題はありません。普段の心臓手術のついでに比較的容易に実施できるうえ、予防効果も明らかだったため、2010年ごろから本格的に取り組むことにしたのです。
■左心耳に対する症例は3600件超
当初は、心臓手術を行う際に左心耳を糸で縫い縮め、血液の行き来を遮断する「左心耳縫縮術」を行っていました。抗凝固剤を服用するのと同程度以上に脳梗塞を予防することがわかっていて、2012年に上皇陛下(当時の天皇陛下)の冠動脈バイパス手術を執刀した際にも左心耳縫縮術を受けていただきました。
近年は、さらに進化させて「左心耳切除術」を実施しています。左心耳を糸で縛るだけでは脳梗塞を完全に予防するには不十分なところがあったからです。もちろん、ほとんどの場合はそれで心原性脳梗塞を防げるのですが、ごくまれに心不全の症状が残ってしまうと防ぎきれないケースも出てきてしまうのです。そこで、左心耳は取り除いても大きな問題はないこと、血栓の移動を防ぐにはできるだけ左心耳を切除して縫った方が確実だとわかってきたことから、左心耳を切り取る方法にシフトしました。