元国立がん研究センターの医師は重度の糖尿病を食事・運動・計測で治した
ヘモグロビンA1cは9カ月で12.8%から5.9%に
食事と運動により安全に血糖値をコントロールするには、常に自分の血糖値の変化を知ることが大切です。そのため、簡易血糖値測定器を利用しました。指先から血液をほんの1滴採取し、それを手のひらサイズの小さな測定器で読み取ります。すると、30秒ほどで血糖値が表示されます。今は、2週間ほど腕に貼り付けただけで連続して血糖値を計測してくれる便利な測定器があります。
最初のうちは、運動後、運動中、食前、食後1時間、2時間、3時間、寝る前や起き抜けなどひたすら測って血糖値がどう変わるのかを見ました。それでわかったのは、運動の種類と程度で血糖値は大きく変わるということです。
例えば、私の場合は食べ始めて30分くらい、モノによっては1時間後くらいに血糖値がピークを迎え、250~300ミリグラムになりました。しかし、運動をすると50~100ミリグラム程度は簡単に下がることがわかったのです。面白いことに血糖値が上がりにくいとされるGI(グリセミックインデックス)値の低い食べ物でも、消化吸収に時間がかかるため食後2時間、3時間後までの血糖値は低いが、5時間後、6時間後は高くなるものもありました。
また運動は、夕食2時間後の午後8時ごろの血糖値が200ミリグラムを超えることがしばしばあることがわかり、その時間帯に散歩をしたり、室内用の自転車(エルゴメーター)を30分ほどこぐようにしました。また、激しい運動をすればするほど血糖値を下げると思いがちですが、これは間違いです。私はマラソンやトライアスロンに挑戦しましたが、そのときの血糖値は高くなりました。考えれば当たり前で、運動が始まると、細胞はエネルギーとして血糖を必要とするために、肝臓に貯蓄していたグリコーゲンを分解してブドウ糖として血液中に放出するからです。筋肉に蓄えられたグリコーゲンは数分で消費されてしまいますが、肝臓のグリコーゲンはなかなか消費されないため、激しい運動をすると逆に血糖値は上がってしまうのです。
いろいろなパターンの血糖値を測った結果、食前の運動よりも食後の、しかも30分後から散歩程度の運動をするだけでも十分血糖値が下がることがわかりました。それが私の体験からの結論でした。
■HbA1cは9カ月で12.8%から5.9%に
こうした努力の甲斐あって1~2カ月後には早朝空腹時血糖値は110㎎/デシリットルまで下がり、3カ月後にはHbA1cは9.6%まで下がったのです。
それから次の3カ月後には7.8%に、さらに次の3カ月目には5.9%となって「食事と運動」による糖尿病治療を始めて9カ月目にしてついに6%を切ることができました。糖尿病の合併症の発症リスクは9%から急に高まること、6%台ではそのリスクはほとんどないことを考えると、私は9カ月で糖尿病を克服したということになるのです。
体重も1年間で13キロの減量となり、高血圧症、高脂血症、脂肪肝も吹き飛びました。
むろん、これは今から30年近く前の経験です。その後、さまざまな研究結果が出て、糖尿病を治すためにより効率的な方法や器具が出てきているでしょう。当時の私のやり方とは異なる部分もあるとは思います。しかし、自分の血糖値をたえずモニタリングしながら、食事や運動で血糖コントロールを行う。そうすれば糖尿病によっては良くなるし、寛解することも可能です。糖尿病克服のカギは、ようは患者さんがやる気をもって、科学的に糖尿病と対峙することだろうと思います。一病息災の生き方です。
▽渡邊昌(わたなべ・しょう) 一般社団法人メディカルライス協会理事長。慶応義塾大学医学部卒。大学院修了後、米国国立がん研究所病理部研究員、国立がんセンター(現国立がん研究センター)研究所疫学部長、東京農業大学栄養科学科教授、国立健康・栄養研究所理事長を歴任。