「長生き至上主義」をやめれば楽になる
団塊の世代が生まれたのは1947年で、人気マンガ「サザエさん」は46年に新聞連載でスタートしました。その父・波平さんは54歳、母フネさんは諸説あって50歳前後という設定です。
80年が過ぎ、日本人の平均寿命は男性は80歳を超え、女性は90歳近くなっています。いま波平さん夫婦の姿を見返すと、2人の姿がまるで老人のように映りますが、それくらい日本人は年を重ねても元気になったことを示しているのかもしれません。
長寿化の背景にはさまざまな要因があり、医学の進歩もそうですが、もっと大きな要素は栄養状態の改善でしょう。それまで炭水化物中心の食生活でしたが、肉を積極的に食べるようになり、タンパク質の摂取が増えました。
その結果免疫力が飛躍的に向上し、昭和25年まで死因のトップだった結核の死亡者数が激減します。その後、脳卒中の患者数が減少していくことも、肉から摂取されたタンパク質やコレステロールによって血管が強化されたことが大きいでしょう。
健康状態の改善で長く元気でいられることはすばらしいことですが、その影響で日常生活から死が少しずつ遠くなっていったのも事実だと思います。しかし、医学や健康状態などいろいろ条件が改善し、どんなに寿命が延びようとも、人は死を免れません。致死率は100%です。
いまの日本では、死の事実にはなるべく触れないようにして、どんどん長生きできるような雰囲気に包まれていると思いませんか。少なくとも長生きをよしとする考えの人は少なくありません。日本に広がっているのは「長生き至上主義」といえます。
生き方や死生観は人それぞれですから、それを否定することはできませんが、「長生き至上主義」が定着した要因には医療もあるでしょう。
米国の大規模調査によると、高血圧の人が降圧剤を服用しないと5年後に8%が脳卒中を発症する一方、薬を服用すれば発症率を5%に抑えられるといいます。この調査を裏返すと、薬を服用しなくても9割以上は脳卒中を発症せず、薬を飲んでも5%は脳卒中を発症している事実です。
その降圧剤は、決して脳卒中をゼロにしているわけではありません。統計学的に有意な結果とはいえ、劇的な効果とはいえないでしょう。
薬による効果はほんのちょっとしたことなのに、医療現場では「薬を飲んでいれば大丈夫」といったようなことで薬が処方され続けています。そういうことも、日本人の死生観を歪ませる原因のひとつでしょう。「長生き至上主義」は、やめた方が楽に生きられると思います。
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