「内村選手が心配」メダリスト池谷幸雄氏が五輪延期で懸念

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東京五輪1年延期で選手への影響は?

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、7月24日に開幕するはずだった東京五輪が1年程度延期となったことで、選手にはどのような影響があるのか。1988年ソウル、92年バルセロナ五輪の体操で計4つのメダルを獲得したタレントの池谷幸雄氏(49)に、調整の難しさ、問題点などを聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ――1年延期が決まりました。

「はっきりしてくれて、みんな良かったんじゃないですか。あるかないか分からない状態で練習を続けるのは難しかったでしょう。ホッとしていると思います」

 ――体操は代表選手がまだ決まっていません。

「全日本選手権とNHK杯、種目別大会の3つで、これから五輪の代表選手を決める予定でした。体操に関しては、予選前でよかった。最高の演技で出場を決めた後だったら、かわいそう。不幸中の幸いではあります」

 ――簡単に「1年延期」といっても調整は難しい。

「体操って寿命が短い。女子なら25、26歳までやっていたら長い方。16歳からなら10年弱です。男子なら20代後半まで。18歳から出たとしても10年くらいです。1年は10分の1ですから、めちゃくちゃでかいですよ。ケガをする時もあればという中での10年。1年変われば計画も変わってきます。体操の場合、1年経つと、伸びてきたり、落ちてきたりがある。早くに決めないのはそういうこと。だから直前に選ぶんです。五輪前のギリギリの時期に強い選手、調子のいい選手を選んでいこうという狙いがあります」

 ――「アスリートファースト」と言いながら、長らく選手がほったらかしにされていた印象です。

「運営側も選手側もできるだけ通常開催の可能性を、というのがあった。政治的にとか、お金の問題、場所も。選手側と運営側の思惑は別物。選手はヤキモキしていたと思います」

 ――今秋だったら混乱は少なかった?

「希望は今年中でしたが、無理ですよね。調整がつきません。場所、人員、チケットの販売……。そもそもコロナ問題が終息しているのか。最短で1年弱だと思います」

■17歳の北園はチャンス、ベテランの内村は厳しい戦いに

 ――自身がソウル五輪に出場した時は高校3年生だった。

「清風高校から出ましたが、1年後なら日体大の選手でした。学校の名誉も変わってきます。伸び盛りの若い選手はいい。今回はダメだったけど、1年あれば、という可能性もある。(若手有望株の)北園丈琉選手(17)はチャンス。今年はどうかなと思っていたが、来年ならいけるかもしれない。逆に内村航平選手(31)は来年はもっと厳しい戦いが待っています。こういう選手は多く出てきますよ」

 ――ベテランはモチベーションを保つのが難しい?

「内村選手は大丈夫なのかと心配です。延期はショックでしょう。ただ、体を休められる。ケガを治す時間ができたと考えられたらいい。来年も挑戦すると決めているなら、そう考えないといけない」

 ――ソウル五輪の選考会も本番直前?

「直前でした。高校1年の夏が終わって冬に入る時に、僕と西川君が監督に呼ばれて『オリンピックを狙ってみろ』と。遅いですよね。本番まで1年半くらいしかありませんから。高2の秋が1次予選。そこまで1年弱。そこである程度、仕上げていないといけない。半年後に2次予選、そして最終予選だった。ちょうど伸び盛りの頃で成長過程だったのでよかった。もし1年前で高2の夏にオリンピックを迎えていたらダメだったでしょう」

 ――「ソウル五輪を目指せ」と言われたきっかけは?

「僕が1年だった夏のインターハイで、4人中3人が1年生で優勝したんです。インターハイはあと2年は勝てるってことで、『五輪も可能性はゼロじゃない』と。『何言ってんの?』と思いました。当時は規定があって、大学生、社会人は五輪と一緒でしたが、高校生の大会ではレベルが低い規定をやればよくて、高度な五輪の規定の練習をやらないといけなかった」

 ――それでも気持ちは五輪へ切り替わった?

「初めて見た五輪は中2の時のロス(84年ロサンゼルス)。その前のモスクワ(80年)は日本が参加していないので、8年間空いているわけです。8年前(76年モントリオール)は五輪に出たいと思っている年齢じゃないし、中2で次のソウルを狙おうなんて全く思いませんよ。開会式で人が空を飛んでいたのが一番印象に残ったくらい(笑い)。ロスの時の体操の代表選手は、20代半ばから後半の選手ばかり。森末さん、具志堅さんとか。僕は14歳くらいで見ている。五輪を目指すとしたら10年後の話で、だいぶ先だと思っているわけですよ。22歳のバルセロナか26歳のアトランタだと思っていました」

 ――どういった五輪対策を?

「高1の冬からは予選のための練習をしました。五輪の規定を覚えて、高校にはほとんど行かず、半分は日体大で大学生と練習をさせてもらった。6畳一間のアパートに監督と西川君の3人で川の字になって寝ながら合宿をしました。大阪では清風高校の目の前にある監督の家に泊まって合宿をしながら代表の座を掴みました。大学生が休んでいる時も練習です。大阪出身の日体大の学生コーチをやっている先輩に補助についてもらったり」

人間が老いに勝てない

 ――ソウルと4年後のバルセロナの2大会を経験した。調整の難しさは違いましたか?

「全然違います。まず年齢が違います。高校生の時はイケイケドンドン。ケガをしても練習をしながら治ったんです。精いっぱいやった状態でソウルに臨めた。ハタチを過ぎてからはケガの治りが遅い。休ませながらやらないとヤバい状態でした」

 ――バルセロナの方が大変だった?

「もの凄く大変でした。練習はしないといけないのに、ケガをひどくさせてもいけない。無理したら元も子もないし。試合をするために体調を整えること。22歳だけど体が変わってくる。だから22歳で引退したんです。体操って極限までやる。骨にヒビが入ったり、絶対に壊れてくる。抑えつつやらないといけない。コンスタントに練習しないといけない競技。その辺が難しかった」

 ――マラソンはすでに決まっている代表選手を代えないそうですが。

「他競技は代えないことはあまりないと思います。年内開催ならそのままで問題はなかったでしょうけど、1年経ったら選手は変わります。今年なら決まっていたのに、もし来年出られなくなった選手は裁判を起こすかもしれません。五輪はそれだけ価値があるし、人生が変わります。それだけ影響力のある大会に、本来なら出られたのに出られないとなると、言ってもしょうがないんですけど、言いたい気持ちも分かります。人間は老いには勝てません。そこが一番の悲劇なんです」

(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ)

※公式YouTube「池谷幸雄体操倶楽部【IGC】」
 池谷氏が26日、公式YouTube「池谷幸雄体操倶楽部【IGC】」を開設した。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、学校休校や部活動の制限など不自由な生活が続く子供たちと保護者が気軽に楽しめる内容になっている。2001年に「池谷幸雄体操倶楽部」を設立。これまで延べ10万人を超える子供たちを指導してきた。17年の世界体操の「ゆか」で日本人女子初となる金メダルを獲得した村上茉愛(23)も教え子だ。ネット配信を通じて時間と場所にとらわれない体操教育を提供する。

▽いけたに・ゆきお 1970年9月26日、東京・府中市生まれ、大阪市育ち。4歳から体操を始め、清風高3年の88年、ソウル五輪に出場し、団体銅、個人種目別ゆかで銅メダル。日体大4年の92年にバルセロナ五輪で団体銅、個人種目別ゆかで銀メダル。同年に引退し、タレントに転向。01年に池谷幸雄体操倶楽部設立。タレント業と並行して、村上茉愛らを育成した。

【写真ギャラリー】東京五輪延期を受け、会見を行った森会長
【動画】池谷幸雄氏が激白 塚原夫妻権力の実態と協会の暗部 前編

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