敵はコロナだけにあらず…黒人差別問題が東京五輪をつぶす

公開日: 更新日:

NBA、MLBでもボイコット多発

 米国社会の人種差別問題がプロスポーツに波及した。

 女子テニス世界ランキング10位の大坂なおみ(22)が、方針を転換して28日(日本時間29日)に予定されているウエスタン&サザン(W&S)・オープン(米ニューヨーク)準決勝に出場する意向を明らかにした。大坂のマネジメント事務所が27日(同28日)に発表した。

 大坂は23日にウィスコンシン州ケノーシャで起きた白人警官による黒人男性への銃撃に抗議して、前日の準々決勝終了後に棄権。事態を重く見たWTA(女子テニス協会)や大会主催者らが協議して準決勝の延期を決めていた。

 大坂は主催者側から出場を要請されたそうで「WTAとUSTA(米国テニス協会)と協議の結果、金曜日の準決勝でプレーすることに賛成した。大会を金曜日に延期することで、この抗議に多くの注目が集まった。このサポートに感謝したい」などとする談話を所属事務所を通じて発表した。

 前日には事件が起きた同州ミルウォーキーを本拠地とするプロバスケットボールNBAのバックスが、プレーオフ第5戦のボイコットを表明すると、NBAと選手会は他の2試合の延期を決定。バックスと同じミルウォーキーにフランチャイズを構えるMLBのブルワーズも、予定していたレッズ戦の中止を早々に決めた。これにマリナーズとパドレス、ジャイアンツとドジャースの4球団も同調し、それぞれ試合を延期した。こうした動きに、NBA、MLBの多くのヘッドコーチ、監督、選手が賛同していることから、今後もリーグ全体に拡大するとみられている。

ドル箱種目は金メダル候補ばかり

 バスケはもちろん、米国では陸上短距離や体操などのトップアスリートにも黒人選手が少なくない。中でも陸上の短距離には2019年世界選手権男子100メートルを制し、世界最速男ウサイン・ボルトの後継者といわれるクリスチャン・コールマン(24)、五輪で6個の金メダルを獲得したアリソン・フェリックス(34)ら、男女のトップスプリンターの他に、リオ五輪女子体操で、個人総合を含む4個の金を手にしたシモーネ・バイルズ(23)といった一流選手が揃う。

 レブロン・ジェームズ(レイカーズ)ら、NBAのスター選手でドリームチームを編成するバスケを筆頭に、米国のスポーツ界は黒人アスリート抜きには語れず、差別の抗議行動は米国スポーツ界全体に広がるのは必至だ。

 米国内での抗議活動が長期化すれば、来年に延期された東京五輪の開催にも影響しかねない。新型コロナウイルス感染拡大により、来年の開催も危ぶまれているが、米国の人種差別問題という新たな懸念材料が出てきた。

 スポーツライターの高野祐太氏が「五輪でも人種問題が今後、表面化しないとは限りません」と、こう続ける。

「IOC(国際オリンピック委員会)、東京五輪組織委員会ともコロナ対策に全力を注いでいますが、過去の歴史を振り返れば、米国の黒人差別が五輪の根幹を揺るがしかねない事態に発展する可能性はあります。黒人に限らず、過去の五輪では有色人種が不遇な目に遭うことが少なくありませんでした。五輪という平和の祭典を人種差別問題を訴える場として捉える米国の黒人選手が少なからず存在してもおかしくありません。現状では可能性は低いですが、『ブラック・ライブズ・マター』(黒人の命は大切だ)に端を発した運動が世界に拡大していくことになれば、五輪にも問題が波及し、東京五輪をボイコットすることで人種差別撲滅を訴える選手が出てくることも考えられます」

トランプ再選ならエスカレート

  五輪での抗議行動といえば、1968年メキシコ五輪での「ブラックパワー・サリュート」(黒い力の敬礼)が有名だ。陸上男子200メートルの表彰台に、靴を脱いだ黒いソックスの米国の黒人選手2人があがった。メダルを受け取り、国歌が流れ、星条旗が掲揚される中、黒い手袋をはめた拳を高々と突き上げ、黒人差別の撤廃を世界に訴えた。

 しかし、その後も米国社会で黒人差別は消えてはいない。

 スポーツファンで現代社会総合研究所所長の松野弘氏もこう語る。

「今年5月、米ミネソタ州で男性が警官に首を圧迫され続け死亡した事件をきっかけに、全米で抗議デモが起こった。それ以前も、黒人男性が警官に射殺される事件は繰り返されてきた。今回も黒人男性が背後から複数回銃撃された。黒人の命を軽視しているのは、白人たちの意識の中に、かつての奴隷制度が今も残っているからです。黒人に対する差別的な言動が多いトランプ大統領が11月の大統領選に勝って再選すれば、黒人差別に対する抗議行動はさらにエスカレートすることが予想される。そうなれば、世界における新型コロナウイルスの感染状況にかかわらず、黒人選手たちの東京五輪ボイコットにつながるかもしれません」

 IOCは五輪における政治的行動を認めてはいない。しかし、1980年のモスクワ五輪を当時の西側諸国がボイコットしたのも冷戦下における政治利用に他ならない。
あの時とは主義、主張は異なるものの、いつになっても黒人差別がはびこる現状を変えるため、黒人アスリートが五輪ボイコットを断行しても不思議ではない。奇跡的に世界のコロナ感染が終息しても、米国のトップアスリートが出てこない五輪は意味がない。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」