柔道、女子レスリング、バドミントン…五輪メダル有力競技の足元をすくう強力ライバルたち
【柔道】「看板競技」だからこそ付きまとう不安
いよいよ東京五輪が23日に開会式を迎える。12日からは東京では4度目となる緊急事態宣言が出され、1都3県の会場が無観客になるなど、いまだコロナ禍が収まらない現状。政府や組織委員会へのブーイングも増えている。一方、いざ開幕すれば日本のメダルラッシュになるのではないか、という声もある。海外選手の国内での事前合宿は次々と中止になり、来日後も数日間の隔離が必要と調整に不安。日本人選手にはそうしたハンディがなく、有利に戦えるのではないか――というわけだ。しかし、そう簡単に勝てるほど五輪は甘いものなのか。
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空前のメダルラッシュが期待されるお家芸の柔道。男子66キロ級阿部一二三(23)、女子52キロ級の阿部詩(20)のきょうだい選手を筆頭に、男子73キロ級にはリオ五輪金メダルの大野将平(29)、男子100キロ超級は同銀メダルの原沢久喜(29)らメダル候補が揃う。
大野は同級に敵なしともっぱら。アクシデントがなければ金メダルを疑う声はほとんどなく、「コロナ禍に関係なく、五輪本番でライバルとなり得る選手の名前を挙げることすら難しい」(柔道関係者)という。
では阿部きょうだいはどうか。柔道に詳しいノンフィクションライターの柳川悠二氏は「まず、お兄さんの一二三ですが」とこう続ける。
「そもそも最大のライバルが2020年に代表決定戦を行った丸山城志郎ですからね。この階級は『世界で勝つより、国内で代表になる方が難しい』ことは明らか。一二三は今年4月にもグランドスラム・アンタルヤで優勝するなど、試合勘を取り戻しているのも大きい。ただ、マヌエル・ロンバルド(22=イタリア)、安保羅(27=韓国)も実力者。油断は禁物でしょう」
ロンバルドは19年グランドスラム・パリで阿部を撃破。同年の世界選手権では不可解な一本取り消しで敗れたものの、阿部を苦しめた。安保羅は今年1月のワールドマスターズで優勝している。
妹の詩は海外勢にめっぽう強く、16年から19年にかけて48連勝。19年のグランドスラム・大阪でフランスのブシャールに敗れ、記録が途切れた。
「阿部詩の関係者に聞いたところ、『ブシャールは肩車にさえ気をつければ大丈夫』と話していた。むしろ警戒しているのはリオ五輪金メダリストのマイリンダ・ケルメンディ(30=コソボ)です。練習パートナーにケルメンディの動きを真似させ対策を練ってきたと聞いています」(柳川氏)
■練習量が減った日本に対し海外勢はガンガン
100キロ超級では12年ロンドン、16年リオと五輪2連覇中のレジェンド、テディ・リネール(32=フランス)が大本命。20年グランドスラム・パリでは影浦に負けたものの、「太りすぎて動きが鈍かった。さすがに五輪本番前には仕上げてくるだろう」とは柔道関係者の弁。クレバーな選手としても知られ、稽古でライバルに手の内を明かすようなことは絶対にしない。
「日本勢にとって気がかりなのが、新型コロナの影響で練習量が減っていることです。全柔連でクラスターが発生したこともあり、感染対策には慎重になっていますからね。対して海外勢は早い段階からワクチンを打ち、ガンガン練習をしています。男子日本代表の井上監督は就任後、『量より質重視』の練習方針に切り替えてきた。それが功を奏すかどうか……」(柳川氏)
こと柔道において、海外勢は日本勢の牙城を崩さんと目の色を変えてきた。五輪が1年延期になったことで、彼らも過去の大会以上に入念な対策を練っているだろう。日本の誇るお家芸だからこそ、「メダル確実」と安心するのは早いかもしれない。
【女子レスリング】「パワー」完封のため求められる冷静な試合運び
柔道の阿部きょうだい同様、2人揃っての表彰台を期待されるのが、女子レスリング57キロ級川井梨紗子(26)、同62キロ級川井友香子(23)の姉妹だ。
妹の友香子は2019年世界選手権(カザフスタン)で敗者復活戦から勝ち上がって3位に入り、姉妹での同時出場を決めた。
友香子の最大の障壁となるのが世界ランキング1位のアイスルー・ティニベコワ(28=キルギス)。
多くの海外勢同様、パワーを生かした投げや押さえ込みなどの大技を得意としている。
川井は、このライバルに対して過去3戦して1勝2敗と負け越し。19年の世界選手権3回戦では試合終盤までリードしながら、残り6秒でフォール負けを喫した。
「ティニベコワが得意とする大技は高得点(5点)を得られ、川井が試合序盤に許せば焦りが生じて攻撃が空回りしかねない。仮に接戦となり同点で試合が終了しても、ビッグポイントを取った選手が勝者となるルールのため、致命傷になりかねません。川井はビッグポイントを奪われないためには、もし投げられても背中からマットに着地せず失点を最小限に食い止める防御が課題になります」(スポーツライター・横森綾氏)
川井は19年にライバルにフォール負けしてから、組み手の強化に着手。昨年2月のアジア選手権(インド)では、そのティニベコワを6-1で下し、成長の跡を見せた。
「代表が内定した19年以降は自信が付いて、落ち着いた試合運びができるようになった。大技さえ防げれば、川井に不安はないと思う」(横森氏)
梨紗子とともに日の丸を掲げられるか。
【バドミントン】世界屈指の「スピード」への対応
世界ランキング1位に難敵が立ちはだかる。
日本時間8日に行われた組み合わせ抽選の結果、第1シードの桃田賢斗(26)は予選グループA組に入った。最大のライバルと目される第5シードのアンソニー・シニスカ・ギンティン(24=インドネシア)は同J組。各組1位が進出する決勝トーナメントは別の山となるため、2人が順当に勝ち上がれば決勝で顔を合わせる。
桃田はギンティンと15年に初対戦して以来、11勝4敗。直近の19年も6勝1敗と大きく勝ち越している。相性は決して悪くないとはいえ「ギンティンは桃田が最も苦手とするタイプの選手です」と、バドミントンをはじめ多くのスポーツを取材するフリーライターの平野貴也氏がこう続ける。
「守備をベースにする桃田に対し、ギンティンは攻撃主体で一つ一つのプレーのスピードが速い。第1ゲーム序盤からトップスピードで積極的に仕掛けるライバルに、どこまで対抗できるか。桃田がスピードに押し込まれるようでは相手に主導権を渡しかねません」
桃田は「彼がいるから、自分(のプレー)は遅い、スピードをあげなきゃと思う」と、ライバルの実力を認めている。
「決勝で対戦することになれば、桃田は攻撃力ある相手にペースをつかませないことです」(平野氏)