ヤクルトVに導いた高津監督の選手操縦術 テコでもブレない投手起用と「ノムラ直伝」の言葉力
ハマスタで5度、宙に舞った。26日、ヤクルトが6年ぶり8度目のリーグ優勝を果たした。
2年連続の最下位に低迷していたチームを頂点に押し上げた就任2年目の高津臣吾監督(52)は、お立ち台でこう言った。
「打線が注目されますが、投手力が今年にかけてすごくアップした。チーム一丸、つなぎの野球がしっかりできたと思います」
村上宗隆(21)、山田哲人(29)の日本代表コンビを擁し、リーグ屈指の打線を誇る一方で課題は投手陣だった。2019年4.78、20年4.61だったチーム防御率は今季、3.45と劇的に改善した。
メジャー経験のある日本人監督として初の優勝。「投手出身ということもあり、大胆かつブレない投手起用がチームに好循環を生んだ」とは、球団OB。
「去年から一貫しているのは、1点、2点のビハインドの展開で、2年連続最優秀中継ぎのタイトルを確定させた清水ら勝ちパターンの投手を起用しないこと。疲労を考慮したものですが、1点差、2点差の展開なら、打線がいいヤクルトなら逆転勝ちのチャンスはある。それが原因で負けた試合もあったが、若手や中堅に経験を積ませた。これにより今季は今野が勝ちパターンに加わり、大西ら中堅投手も成長。田口、スアレスら先発を配置転換するなど手当てをしたこともブルペン強化につながりました」
胴上げ投手となった抑えのマクガフは、66試合で3勝2敗31セーブ、防御率2・52ながら、制球に不安を抱え、この日のようにたびたびピンチを招いた。それでも高津監督は勝利の方程式について「このスタイルは変えない、変えられない。打線もそう、ピッチャーの起用法もそう、チームの雰囲気もそう。引き続き、僕らの野球をやりたい」と言い切った。
高卒2年目で9勝をマークし、一気にブレークした奥川恭伸(20)の起用も一貫している。
「ロッテは優勝の切り札として、奥川と同級生の佐々木朗希の中6日登板を解禁した。奥川も今のヤクルトで一番勝つ確率が高い投手。中6日で使いたいはずなのに過保護を貫き、中9日以上で起用している。高津監督は22年間現役を続けた。15年、20年先までプレーする選手に育ってほしいという気持ちが強いのです」(前出のOB)
そんな指揮官が重視しているのが言葉の力だ。
「小さくなるなよ。スイングも、人としても、スケールの大きな人間になれ。グラウンドでみんなから注目されても恥ずかしくないように、しっかり、堂々とやりなさい」
17年から3年間務めた二軍監督時代、プロ入り直後の村上にプロとしての心構えを伝えた。
17年ドラフト1位で入団した村上は捕手から三塁へ転向。1年目の18年から主に4番で98試合出場、打率.288、17本塁打、70打点の好成績を挙げた一方で、84三振を喫した。しかし、当時の高津二軍監督は三振の数はうるさく言わず、ノビノビやらせた。それが翌年の新人王獲得につながっていく。
「不思議の勝ち」「不思議の引き分け」
コーチ、二軍監督時代から、選手には野球の考え方や意識の持ち方を伝えてきた。1990年代にヤクルト黄金時代を築いた野村克也監督時代の守護神。多数の著書を残すなど言葉を大事にした恩師から多大な影響を受けている。
9月7日の阪神戦前の全体ミーティング。高津監督は、2年連続で3勝3敗で迎えた西武との93年・日本シリーズ第7戦の試合前に野村監督が言った「勝敗は時の運。人事を尽くして天命を待とう」という言葉を紹介した。
その上で、勝ち負けに一喜一憂することなく、日々前向きに野球に取り組んでもらう意味も込め、「絶対大丈夫」という言葉を何度も繰り返し、選手をその気にさせた。
「自分のことを理解して、足元を見つめて、チームメートを信じて、『チームスワローズ』の一枚岩でいったら絶対崩れることはない。何かあったら僕が出ていく」
この「絶対大丈夫」はステッカーとなり、選手や裏方はこれをヘルメットなどに貼った。お守り代わりだった。
指揮官の言葉のマジックが効いたのか。9月14日から28日まで13戦連続負けなしの球団新記録をつくるなど、ミーティング以降、25勝11敗6分けと勝ちまくった。
野村克也氏は、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言った。負ける際には敗因があるが、勝つ時は、相手のミスなどで白星が転がり込むケースもある。個々の選手の準備とプレーの姿勢が問われるわけだが、ヤクルトの野手は助っ人や足に不安を抱える者も常に全力疾走で相手にプレッシャーを与えた。10月7日の巨人戦では八回まで無安打も、最終回に坂本の送球ミスの間にサヨナラ勝ちした。
13戦連続で負けなかった9月、25日の中日戦。試合は0―0で引き分けたが、初回の2死一塁の場面でビシエドが左中間に放った大飛球がフェンス手前で失速。事なきを得た。
「これが本塁打になっていれば結果はどうなっていたかわからない。神宮は季節や天気によって風向きが変わる。秋は右翼から左翼方向に強い風が吹くことが多い。しかし、ビシエドの打席は偶然、外野上空の風がアゲンストだった。そこへいくと、9月28日のDeNA戦で青木の左翼席への決勝満塁弾は打球が風に乗った。風は両軍が影響を受けるものだが、そのタイミングが味方したとチーム内で話題になった」(球界関係者)
「不思議の引き分け」すら呼び込むヤクルト。CSでも阪神、巨人の勝者を蹴散らすか。
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