【銀行の前途】史上初のマイナス金利で揺れた昨年。トランプ政権発動で状況は変化しているが、日本の銀行の前途は暗い。
「捨てられる銀行」橋本卓典著
金融庁といえば金融機関の健全性だけを重視して大きな改革を嫌う省庁の代表格。ところが日銀のマイナス金利と同時期、金融庁は地銀などの地方金融機関が地域経済の復活に貢献していない、との認識をあらわにした。
現にこの間、地銀再編はかつてなかったスピードで進んでいる。著者は共同通信の経済記者として日本の地銀・地域経済の実態と監督官庁の姿勢を取材し、本書を執筆した。
旧大蔵省で傍流だった森信親金融庁長官の地銀再編とその背景をたどる第1章から巧みなルポルタージュで読者を引き込む。経済時評や解説はとかくシロウトにわかりづらい記述に流れがちだが、著者は取材先の人物像まで丹念に描き、東工大から東大教養学部に学士入学した森長官をはじめ、さまざまなエピソードをまじえることで経済ノンフィクションの域に迫っている。非効率の極みを這いずる日本経済の実態が目に見えてくる。(講談社 800円+税)
「中央銀行は持ちこたえられるか」河村小百合著
デフレ脱却を至上命令にかかげながら化けの皮がはがれたアベノミクス。日銀出身のアナリストとして人気の著者は、初心者にもわかりやすい説明が特徴だ。
たとえば財政危機が来れば債務調整が実施になる。アベノミクスは消費税引き上げなどでインフレ状態をつくり出し、債務調整の効果を得ようとしているが、国民からすると給料が上がらないまま物価だけ上がり、生活苦を余儀なくされることになる。また国内債務が大きい日本の場合、銀行や信用金庫に預けた預金が元本割れを起こす懸念すらあるのだ。預金封鎖と通貨切り替えで強引に債務調整を行う手法も、実は戦後に実施されたことがある。
本書の副題は「忍び寄る『経済敗戦』の足音」。怖い話ではないか。(集英社 760円+税)
「銀行激変を読み解く」廉了著
著者は三菱UFJ系シンクタンクのアナリスト。マイナス金利政策が日本経済に与える悪影響からEU離脱の衝撃まで幅広く論じる。
安倍政権は昨年6月、消費税率引き上げの2年半先延ばしを発表したが、これは日本国債の格下げにつながる。足元ではA格を維持しているもののさらなる格下げがあれば国際市場で適格担保とされなくなる懸念もある。
日本は極東の小島と地政学的に「辺境」にあり、それがまだ無風状態を維持できる原因になっているのだ。それゆえ、財政バランスの悪化を放置すればするほど、国債の暴落と金利急騰は避けがたくなる。これほど極端な政策を導入しても消費者物価上昇率が2%に届かない。その根本にある政治不信を当局は認識すべきだと説く。(日本経済新聞出版社 860円+税)