“カエルのペペ”がネトウヨのお気に入りになるまで

公開日: 更新日:

「フィールズ・グッド・マン」

 1月6日のトランプ支持者による米議会襲撃事件以来、あんなたわ言に踊らされる人間の心をずっと考えている。

「負けなんか認めない。行進しよう。俺も一緒に行く」

 そうたきつけて自分はさっさと隠れたのに支持者たちはいまも熱狂的だ。一体なぜ? その答えを示唆するのが今週末封切りの映画「フィールズ・グッド・マン」である。

 主題はトランプではない。「カエルのぺぺ」と呼ばれるマンガの主人公が、作者の意に反してネットでオタクの分身から差別主義のキャラに化け、いつしかネトウヨのお気に入りにされる経緯をたどったドキュメンタリーだ。

 ぺぺはいわゆる「グロかわいい」キャラ。子供のころおしっこのときにズボンを床まで下げた友だちを思い出して「フィールズ・グッド・マン!」(気持ちいいぜ)と吹き出しをつけたら、いつのまにかアメリカ版2ちゃんねるの「4chan」で拡散。15年ごろオルタナ右翼のアイコンに化けてしまったという。

 作者のマット・フューリーは団塊ジュニア世代の草食系オタク。友人はネット拡散を心配したが、気弱な本人は傍観してしまったらしい。

 インターネット発の流行は「ネット・ミーム」と呼ばれる。「ミーム」は何らかの文化行動が模倣的な情報となって広まることを指すドーキンスの「利己的な遺伝子」に由来するが、原理的には社会学でいう「スティグマ化」(烙印を押す)に近いだろう。

 スティグマに非難をこめたのが「スケープゴート化」。釘原直樹編「スケープゴーティング」(有斐閣 2600円+税)は事故報道などで激しい非難が起きる事例を論じた社会心理学の論集である。

 人心に巣くう悪意と怒りをジョークのふりで玩弄する「ドヤ顔トランプ」を後押ししたネットの闇。そのしくみを解き明かすヒントがある。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動