「日常の絶景」八馬智著

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 一般的に、絶景とは「多くの人が共感できる美しさや迫力を持つ他にはない風景」とされる。しかし、光の加減で見慣れた部屋に見たこともない表情が出現したり、通勤通学路に新たな発見をすることがある。

 本書は、都市鑑賞者(本職はデザインを教える大学教授)の著者が、自らのコレクションを紹介しながら、日常の身近な風景の中に潜むそんな「絶景」の見つけ方を教えてくれるビジュアルブック。

 まず目を向けるのは街中の至る所にあるエアコンの「室外機」。窮屈な場所に押し込められ、過酷な環境にさらされながら、人間に奉仕しているが、騒音や排気などで目くじらを立てられる嫌われ者でもある。

 しかし、「室外機への屈折した愛情をこじらせたビルオーナーが、自らのコレクションをビルの壁面に堂々と公開展示していることがある」。

 --もちろん室外機コレクターがいないことは分かってはいるが、そんな「妄想」を膨らませながら、改めて室外機がちりばめられた壁面を「鑑賞」してみれば、意外な絶景が見つかるというのだ。

 軒の上に室外機と飲食店の看板が「対」で並んだレンガ造りの高架下(千代田区)をはじめ、整然と規則的に並んでいるようでよく見ると絶妙なリズム感が感じられる配置の室外機と外壁の縦スリット、そして窓が絶景をつくり出すビル(上海)、極め付きはこれまでの常識を覆すように備え付け室外機をオブジェ化した建物(インド・ニューデリー)など。

 いくつもの「絶景」を提示して、街の知らなかった見方を説いていく。

 基本的には建物の背面などに設置され、なかなかお目にかかれないが、スペースの制約や管理の問題から、うっかり人目に触れてしまう場所に設置された「パイプ」や「ダクト」も絶景をつくり出すことがある。

 見つけたときには、見てはいけないものを目にした背徳感のような感情を抱きつつ、伏し目がちに観察していると、知らぬ間に魅了されていることに気づくという。

 屋上に向かって天に昇るようなダクトがいくつも連なり、まるで神殿のような飲食店ビル(港区)や、人気のチンアナゴのようなダクトで親近感を抱かせる焼き肉店(佐賀市)などを紹介しながら、パイプやダクトを現代の装飾様式のひとつにしてもいいのではないかと問う。

 ほかにも自動販売機に寄り添う擬人化された「リサイクルボックス」をはじめ、不思議な存在感を放つ「避難階段」、常に裏方に位置づけられ、決してメインになることがない「駐車場」、集合体で本領を発揮する「消波ブロック」、そしてさまざまな方法で都市を守っているのに都市生活者には意識をされることがない「ダム」まで、SサイズからXLサイズまで都市内外に存在する見ようとしなければ見えない15の対象物をテーマに、それらがつくり出す絶景を紹介。

 一読すれば、身の回りの風景がいつもと違って見えてくる。

(学芸出版社 2420円)

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