「映画を早送りで観る人たち」稲田豊史著/光文社新書
ゼミの学生たちと話をしていて、気になることがあった。それは、話題作を中心に映画をたくさん見ている学生が数多くいることだ。私は深く考えずに、学生だから時間に余裕があるのだろうと考えていた。
しかし、本書を読んで、合点がいった。若者は、映画を早送りで見たり、あらすじを紹介するファスト映画を見たりしているのだ。本書は、なぜそんなことが起きているのかという謎解きから始まる。著者の分析では、大量の映像作品が供給されるようになったこと、若者がコスパを求めるようになったこと、そしてセリフですべてを説明する作品が増えたことの3つが、原因だという。
確かに、私の時代には、映画館に行くのは一大イベントだったし、レンタルビデオを借りるのでも大きなコストがかかった。しかし今は、サブスクで、コストをかけずに大量の作品を消費できる。だから、仲間と話題の共有化を図るために、作品のあらすじだけを効率的に吸収しようとするのだ。そうした視聴習慣を前提にしたら、出演者の表情やしぐさで感情表現をする手法は、もはや通用しない。黙っていたら、早送りされてしまうからだ。
ただし、こうした「早送り」の分析は、本書の導入部分に過ぎない。本書のメインテーマは、生まれた時からネット環境に親しんできた「Z世代」の社会学的分析だ。
本書でも紹介されているように、Z世代の特徴は、①SNSを使いこなす②ぜいたくをしない③所有欲が低い④仲間とのつながりを大切にする⑤流行やブランドより自分や仲間の好きを優先させる⑥出世欲がない⑦社会貢献意欲がある⑧多様性を認め、個性を尊重しあうというものだ。
確かにそう見えるのだが、著者のZ世代分析は、さらに深いところまで斬り込んでいく。例えば、多様性を認め、尊重しあうということの本質は、差別を許さないという教育を受けたZ世代が、自分たちだけのお花畑をつくって立てこもる選択をしたということだ。そのことが、「自分と異なる価値観に触れて理解に努める」という行動を若者から失わせていると著者は喝破する。Z世代とのギャップに悩む中高年にぜひとも読んでほしい本だ。 ★★半(選者・森永卓郎)