「山旅犬のナツ」服部文祥著
「山旅犬のナツ」服部文祥著
山中で食料を調達しながら山旅をする「サバイバル登山家」のパートナー犬、ナツの物語。
ナツは北海道出身。友人宅の敷地内に勝手にすみ着いた野良犬の娘だ。
クライミングからサバイバル登山へと登山スタイルが変化する過程で体験した狩猟の修業時代、猟犬と共に猟を行う機会があり、少年時代から抱いてきた犬と暮らしたいという思いが再燃。
そんなときに、友人から子犬の話が舞い込み、妻にはとりあえず子犬の顔を見てくると言い残し、北海道に飛ぶ。そして、その日の夜には、後にナツと名付ける子犬を横浜の自宅に連れて帰ってきたという。2016年の春のことだ。
犬と一緒に旅をするのが夢だったから、ナツはリードでつながなくとも常にそばを離れない犬になって欲しかった。その上、長時間山中を一緒に歩く体力があり、遠出や野宿を嫌がらず、狩猟に役立てば申し分ない。
まずは近所の地形を頭に入れてもらうべく普通の散歩をするとともに、自宅と地続きの裏山でノーリードで歩く練習も始める。
そして、生後3カ月ごろには、丹沢でのハイキングに連れ出す。住宅地と裏山しか知らなかったナツにとっては全てが初めてのモノばかり。砂礫の斜面に足を踏み入れ、崩れる土砂と転がり落ちたり、透き通った水が理解できず、沢に踏み入って驚いたりしていたという。
やがて秋になり、ナツにとって初めての猟のシーズンが始まる。
当初は、倒した鹿の匂いを嗅がせても、尻尾を股の間に巻き込んで遠巻きに見ているだけだったナツも、数回の猟で自分がするべきことを自覚。あるとき、半矢(弾が命中したが致命傷にならずその場から逃げ出した)の鹿を追いたそうにしていたので、不安を抱きながらもリードを外すと、半矢とは別の元気な鹿を追い出してしまった。
戻ってきたナツに改めて地面の血痕を嗅がせると、今度は見事に半矢の鹿を捜し出し、射止めることができた。
翌春には、妻と娘と一緒の家族サバイバル登山にナツも同行。沢登り中、ナツが通過できない場所では、迂回路を示したり、抱きかかえて通過していたが、やがて犬には困難な岩場は、自分で判断して、回り込んでついてくるようになったという。
出合ってから7年。ナツとの山旅は3000キロに及ぶ。その時々の思い出とナツの成長ぶりを写真とテキストで振り返る。
山旅をしていないときは廃村の古民家を拠点に狩猟と畑作をしている著者の傍らには、いつもナツがいる。
著者が忙しそうにしていると、ナツはひとりで山に遊びに行って、何時間も帰ってこないときもあるという。ある日、ようやく帰ってきたと思ったら様子が変で、見ると脚に大けがをしていた。
最悪の事態も覚悟して著者はナツを連れて山を下り、獣医に駆け込む。
そんな試練も乗り越え、ナツは今日も野山を駆け回っていることだろう。
(河出書房新社 1980円)