「生物と性」エマニュエル・プイドバ著、ジュリー・テラゾーニ絵、西岡恒男訳
「生物と性」エマニュエル・プイドバ著、ジュリー・テラゾーニ絵、西岡恒男訳
生物の進化と多様化には生殖が欠かせない。生命が陸上に進出した4億年前まで、生殖はメスが水中で放卵し、オスが放精する体外受精で行われてきた。しかし、性細胞は地上や空気にさらされた状態では長く生きられず、陸上で生存していくために生殖器の大革命が起こり、体内受精という方法が生まれた。メスの体内の卵に精子を届けるために生物が見いだした解決法がペニスだった。
生物は自らの生存をかけて、ペニスをさまざまな形態に進化させてきた。本書は、生き物たちのペニス(種によって呼称は異なるが)を紹介しながら、その生存戦略と性行動の不思議を紹介するイラストテキスト。
アジアやオセアニアの熱帯に生息する世界最大のワニ、イリエワニのペニスは、普段、腸管や尿道、生殖道を兼ねる「総排出腔」と呼ばれる穴の中に隠されている。体内に収納中も常に勃起状態で、ペニスを支える筋肉が引っ張られると、総排出腔から出てくるそうだ。
そのペニスは円筒形でやや横に平べったく溝がある。溝状のペニスは生命の歴史に初めて現れたペニスに似ているという。
以降、「半陰茎」(ヘミペニス)と呼ばれるふたまたのペニスをもつヨーロッパクサリヘビや、交尾に成功した瞬間にペニスを切り離すイカやタコの近縁種「アオイガイ」(表紙)、求愛のために腹部の凸凹にペニスをこすりつけて「歌う」水生昆虫のチビミズムシ、フェラチオやクンニリングスを行うコウモリやクモ、アナルセックスや「鼻セックス」といった同性愛行動をするバンドウイルカなど30余種。さらに解説の中にも他の動物たちが数多く登場し、そのペニスと驚くべき性行動を紹介。
読み進めるうちにヒトの生殖器や性行動が、何とも平凡に思えてくるはず。 (求龍堂 3520円)