恐怖のない安寧な死はある 104歳の女性患者に教えられた
ある年の2月末、Rさんは水分以外ほとんど食事を取らなくなりました。部屋を訪ねると、いつものように右手を出して握手を求められます。私が「食べたくないの?」と尋ねると、「眠りたいのよ。このままでいいの」とおっしゃるのです。
80歳に近い息子さんと今後について相談したところ、「母から『最期は延命処置をしないでくれ。自然に』と自筆の書をもらっています。自然にお願いします」とのことでした。
それを受け、私は特に医療的処置を行わず様子を見ていました。それでも、およそ10日後には食事を少しずつ取れるようになり回復されました。
3月の末になり、施設の前にある大きな2本の桜が満開になった時、私は「車いすに乗って桜を見よう」と誘ってみました。しかし、「桜? 見なくてもいいよ。もう、たくさん見たから……」と断られてしまいました。
■このまま眠って死んでいいのに
それから7月ごろになって、Rさんは再び食べなくなりました。吸い飲みでお茶やコーヒーなどはむせることもなく飲まれますが、食事はされません。