まるでそこにいないかのように無視され孤独を噛みしめる
佐藤さんは「困った認知症の父親」について私にこう言った。
「父親が、理由もなく茶碗を投げたり、大声で罵ったりするんだ。症状が進行したんだなぁ。そろそろ施設を探さないと……」
その可能性は否定できないが、それまでの経緯を聞いてみるとこうだ。
佐藤さんが実家に戻って半年もすると、父親は言葉がすぐに出てこなかったり、言ったことも忘れたりで「どうせ親父に話をしても分からんだろう」と、ケアマネジャーに相談する時も父親抜きで決めた。昔から家族3人で食卓を囲んで楽しく話し合っていたのに、その時分になると、父親そっちのけで母親だけと相談するようになった。認知症で判断力がないんだから、佐藤さんもそれが当然と思っていた。
「だってね、俺がデイサービスの感想を聞いてるのにちっとも返事をしない。それなのに10分も経ってから『あ、あれは……』なんて言い始める。冗談じゃないよ」
脳に障害があるのだから、うまく発語ができない父親は、「あ」とか「う」とか言えない。すると周囲の話題はいつの間にか先に進んでしまう。やっと父親が言葉を思い出すと、「その話はもうすんだよ」と無視される。