牡蠣には余計な塩分加えずにうま味を味わい生活習慣病改善
糖質、アミノ酸、鉄分…プリッとした肝臓に豊富なうま味成分
私は、ニューヨークのロックフェラー大学で客員教授をしているので、しばしばニューヨークに行くのだが、その際の楽しみは牡蠣を食べること。有名なのはグランドセントラル駅にあるオイスターバーだが、街場の小ぶりなレストランでも、いつでも食べられる。
日本では、牡蠣の旬は秋から冬で、Rのつかない月(May~Aug)は食用に適さない、といわれているが、米国ではこの話を聞いたことがない。米国人の知人に言うと怪訝な顔をされる。これは日本で主に食べられるマガキの産卵期が夏の時期にあたり、このとき貝の卵巣と精巣が肥大して身がやせてしまうからだろう。しかし最近は品種が増え、この時期にもおいしく食べられるものも多い。実際、米国では、kumamoto、umami、shibumiといった日本名のついた小ぶりな牡蠣が好まれている。
牡蠣の身のいちばんプリッとした部位は肝臓である。肉でもレバーには独特の風味があるように、牡蠣の肝臓にもグリコーゲン(糖質)、アミノ酸、鉄分などのうま味成分が豊富に含まれ、複雑なおいしさを形づくっている。レモンやラディッシュなどの薬味を少々のせて、白ワインを合わせると最高である。牡蠣の生食で怖いのは「あたる」ことだが、これは海水や餌に由来する大腸菌やノロウイルスのせい。生産者も衛生管理を徹底し、また出荷前には清浄な水に置くことで、極力感染を防ぐ努力をしている。どうしても心配な人は、カキフライや焼いたものを召し上がれ。これはこれで十分魅力的。煮ても焼いてもおいしいのが牡蠣である。もちろん栄養価も満点だ。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
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