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中川恵一東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

BRCA遺伝子の変異でリスクが高まる7つのがん 日本人10万人調査で判明

公開日: 更新日:

 乳がんなどの発症リスクを高めるといわれる遺伝子変異があると、胃や食道、胆道などのがんの発症リスクも高まることが明らかになりました。理化学研究所や国立がん研究センターなどのチームが日本人約10万人分の遺伝子を解析した結果です。

 対象となる遺伝子はBRCAで、「1」と「2」の2種類あって、細胞のがん化を抑えてくれます。それらの遺伝子変異によって、これまで乳がん、卵巣がん、すい臓がん、前立腺がんが発症しやすいことが分かっていました。いずれかの変異があると、たとえば女性の乳がんは11~16倍、卵巣がんは76倍、すい臓がんは11~13倍、男性の乳がんは68倍も高リスクです。

 研究チームは、この4つに加えて、胆道がん、子宮頚がん、大腸がん、子宮体がん、食道がん胃がん肝臓がん肺がん、リンパ腫、腎臓がんの合計14種類の患者約6万5000人と、がんではない3万8000人を対象に、BRCAの2つの変異との関係を調査しています。

 その結果、BRCA1については胃がん(5倍)、胆道がん(17倍)、BRCA2については胃がん(5倍)、食道がん(6倍)の関連が明らかに。カッコ内の数値は、変異があるとそれだけ発症リスクが高まることを示しています。

 さらに変異がある人が85歳までにそれぞれのがんになる確率を計算。女性の乳がんは58~73%(変異のない人は8%)、卵巣がんは15~66%(同1%)、すい臓がんは15%(同1%)、胃がんは20%(同5%)、胆道がんは11%(同1%)でした。変異がない人に比べると、いずれも高い発症率です。

 この結果はとても重要で、たとえば日本人に多い胃がんで若くして命を落とすようなケースは、BRCAの変異が関係していると思います。堀江しのぶさんは23歳でスキルス性胃がんで亡くなりました。

 米女優アンジェリーナ・ジョリーはBRCA1に変異があり、2013年に乳がん予防で乳腺の予防切除を、その2年後には卵巣と卵管の切除を公表しています。若くしてこれらのがんになった家族がいたためです。

 この研究結果から、家族に若くして7つのがんになった人がいる場合、BRCAの変異を調べる検査をしてもいいと思います。検査で陽性が認められたときの影響はとても大きい。臨床遺伝専門医と遺伝カウンセラーがいる病院で検査を受け、相談することです。相談は本人のほか、子供など家族も含みます。

 BRCA変異によるがんは、PARP阻害薬やオラパリブなどの薬剤が有効です。治療薬があるので、血縁者に若年がん患者がいる人は、検査を受けるといいでしょう。

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