(33)深夜のコンビニ駐車場…私の前でベンツが急ブレーキで止まった
「パイロットになりたい」「新幹線の運転士になりたい」「バスの運転士になりたい」などという子どもはいるが、「タクシーの運転士になりたい」という子どもの話を、私は聞いたことがない。パイロット、新幹線の運転士と幼い子どもが言えば、「そう、それはいいね」と親も笑って答えるだろうが、もし子どもの夢が「タクシードライバー」だったら、そうはいかない。たとえ幼い子のたわいもない夢だったとしても、ほとんどの親は「やめておいたほうがいい」と言いたくなるに違いない。
なぜなら、タクシードライバーが決して恵まれた職業ではないことを知っているからだ。勤務時間は過酷、給料は歩合制、ボーナス、退職金はないに等しい、煩わしい接客、ときに身の危険も伴うとなれば、親として子どもにはすすめられないのは当然のことだ。現在はともかくとして、ひと昔、ふた昔前のタクシードライバーのなかには、人品、人柄にクエスチョンマークの付く人物が少なくなかったことも無関係ではないだろう。
なりたくてなる職業でないことは、いまも昔も変わらない。人手不足は日常的で、たとえば20年ほど前、私が勤務していた会社でも、ドライバー志望者を紹介すると5万円が紹介者に支給されていたことがある。さらに正社員登用となるとさらに5万円、計10万円が支給された。多くのタクシー会社も同じように人集めをしていた。