アテネ五輪の舞台裏 食事会場は話し声すら聞こえなかった
どんなチームにも盛り上げ役というか、ベンチの雰囲気が暗くなったときに音頭を取って場を明るくする選手がいるものです。アテネ五輪の野球日本代表では、まとめ役の宮本慎也さん……ではなく、中畑清監督代行がその役割を一手に引き受けていました。宮本さんはむしろ、個性が強いバラバラのナインをひとつの方向に向かせる引き締め役でした。
一方、中畑さんはあのキャラクターですからね。グラウンド内では長嶋監督の代役という重責と闘っていましたが、それ以外では明るくひょうきんな「ヤッターマン」。
■「切り替えていこう」
そんな中畑さん、次いで明るく陽気な高木豊コーチも、予選リーグでオーストラリアに負けた後はあまりしゃべらず、試合後のミーティングでも「切り替えていこう」くらいしか言いませんでした。それ以上話せば、チームの雰囲気がさらに深刻になってしまうと理解していたからだと思います。
僕ら選手も落ち込んでいる……とは言わないまでも、どこか重苦しいムードに包まれていました。それ以前は「金メダル」「全勝」という重圧を抱えながらも、和気あいあいとした雰囲気があったものです。ホテルの食事はバイキング形式なので、特に決まった食事時間はありません。おのおの好きな時に会場に向かい、食事をし、居合わせたナインと談笑することもありました。