武田薫
著者のコラム一覧
武田薫スポーツライター

1950年、宮城県仙台市出身。74年に報知新聞社に入社し、野球、陸上、テニスを担当、85年からフリー。著書に「オリンピック全大会」「サーブ&ボレーはなぜ消えたのか」「マラソンと日本人」など。

「さすらいのジャパンオープン」はテニス協会の体質を変えない限りこれからも続く

公開日: 更新日:

「キミ、違うよ。一緒に渡米したのは副知事じゃなく助役だ」

 小坂会長も川廷氏もS氏も、みな上流階級出身の純粋なテニス愛好家だった。バブル期にスポーツ愛が企業欲へ変質し肥大化した……それが、いま混濁する東京五輪問題の下地である。

■錦織、大坂を授かりながら…

 楽天の冠は2009年からで、錦織人気で盛り上がった。出場すれば即完売。錦織も2度の優勝で期待に応えたが、トップ選手はほぼ全員、同じATP500の北京に回っていた。09年の上海マスターズカップで、ナダルにそれを尋ねたことがある。

「本当に来て欲しいのか、東京に聞いてみてよ」

 会見の問答はいまもネット検索できる。公式戦だろうと引く手あまたの選手に出場交渉は欠かせず、問題は金だけではない。主催する協会にはツアープロの世界に人脈がなく、交渉の手段も意思もない。メーカーとの付随契約の出場では、選手のやる気は薄く、途中棄権が多かったのはそのためもあるだろう。

 錦織も出た15年の団体戦のエキシビション大会ⅠPTLでこんなことがあった。裏口の暗がりで大男がたばこを手に談笑していた。彼と話していた、デ杯でも活躍した鈴木貴男が紹介してくれたのは日本でも人気のサフィンだった。鈴木だけでなく、古くは神和住純や平木理化、ツアー内に人脈を持つ選手やコーチは少なくない。彼らの経験が生きないのは金でもコロナでもなく、アマチュアの裃をつけ、五輪の印籠を手にプロを仕切る無理な組織構造だ。

 この先、錦織だけでなく、西岡良仁ダニエル太郎らが働けない、働きたくない体質を変えない限り、協会最大の財源「ジャパンオープン」のさすらいは間違いなく続く。錦織、大坂なおみという至宝を授かりながら何もできなかった。この年度末、理事総入れ替えくらいの覚悟は必要だろう。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • その他のアクセスランキング

  1. 1
    男子バレー日本代表エース高橋藍の素顔 ネーションズリーグ無傷の8連勝を牽引

    男子バレー日本代表エース高橋藍の素顔 ネーションズリーグ無傷の8連勝を牽引

  2. 2
    立教大・上野裕一郎駅伝監督が電撃解任…女子部員との“禁断不倫”騒動で失う「名声」「仕事」「家庭」

    立教大・上野裕一郎駅伝監督が電撃解任…女子部員との“禁断不倫”騒動で失う「名声」「仕事」「家庭」

  3. 3
    「女子は今のタイムじゃメダルは厳しい。ゼロもあり得ると思う」レジェンド松田丈志氏が占う女子競泳

    「女子は今のタイムじゃメダルは厳しい。ゼロもあり得ると思う」レジェンド松田丈志氏が占う女子競泳

  4. 4
    女子レスリング53kg級「新・霊長類最強の女」藤波朱理は大舞台を制し“飲酒解禁”なるか

    女子レスリング53kg級「新・霊長類最強の女」藤波朱理は大舞台を制し“飲酒解禁”なるか

  5. 5
    出雲駅伝でドーピング違反が判明…大学駅伝界に忍び寄る禁止薬物の影に「箱根」が呑まれる日

    出雲駅伝でドーピング違反が判明…大学駅伝界に忍び寄る禁止薬物の影に「箱根」が呑まれる日

  1. 6
    男子バレー指揮官が絶対に避けたい“アテネの二の舞”…五輪直前に金候補と強化試合を組んだ意図

    男子バレー指揮官が絶対に避けたい“アテネの二の舞”…五輪直前に金候補と強化試合を組んだ意図

  2. 7
    池江璃花子は「まだ戻り切っていない。現時点で結果を求めるのは酷」レジェンド松田丈志氏が占う女子競泳

    池江璃花子は「まだ戻り切っていない。現時点で結果を求めるのは酷」レジェンド松田丈志氏が占う女子競泳

  3. 8
    「もっとも可能性があるのは200個メドレー瀬戸大也」レジェンド松田丈志氏が占う男子競泳メダルの数

    「もっとも可能性があるのは200個メドレー瀬戸大也」レジェンド松田丈志氏が占う男子競泳メダルの数

  4. 9
    羽生結弦に「妻を守り切れなかった男」のレッテル…“完全無欠のプリンス”を見る目にも変化が

    羽生結弦に「妻を守り切れなかった男」のレッテル…“完全無欠のプリンス”を見る目にも変化が

  5. 10
    “スーパー中学生”ドルーリー朱瑛里に海外流出を危惧する声…弁護士を通じ異例の要請

    “スーパー中学生”ドルーリー朱瑛里に海外流出を危惧する声…弁護士を通じ異例の要請

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    「踊る大捜査線」12年ぶり新作映画に「Dr.コトー診療所」の悲劇再来の予感…《ジャニタレやめて》の声も

    「踊る大捜査線」12年ぶり新作映画に「Dr.コトー診療所」の悲劇再来の予感…《ジャニタレやめて》の声も

  2. 2
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3
    一門親方衆が口を揃える大の里の“問題” 「まずは稽古」「そのためにも稽古」「まだまだ足りない稽古」

    一門親方衆が口を揃える大の里の“問題” 「まずは稽古」「そのためにも稽古」「まだまだ足りない稽古」

  4. 4
    阪神岡田監督の気になる進退 来季続投がスジだが…単純にそうはいかない複雑事情

    阪神岡田監督の気になる進退 来季続投がスジだが…単純にそうはいかない複雑事情

  5. 5
    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6
    大谷への理不尽な「ボール球」ストライク判定は差別ゆえ…米国人の根底に“猛烈な敵愾心”

    大谷への理不尽な「ボール球」ストライク判定は差別ゆえ…米国人の根底に“猛烈な敵愾心”

  2. 7
    巨人・岡本和真「急失速の真犯人」…19打席ぶり安打もトンネル脱出の気配いまだ見えず

    巨人・岡本和真「急失速の真犯人」…19打席ぶり安打もトンネル脱出の気配いまだ見えず

  3. 8
    新関脇・大の里の「大関昇進の壁」を親方衆が懸念…看過できない“練習態度”の評判

    新関脇・大の里の「大関昇進の壁」を親方衆が懸念…看過できない“練習態度”の評判

  4. 9
    高橋一生「ブラック・ジャック」高視聴率も続編困難か…永尾柚乃“完璧ピノコ”再現に年齢の壁

    高橋一生「ブラック・ジャック」高視聴率も続編困難か…永尾柚乃“完璧ピノコ”再現に年齢の壁

  5. 10
    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し

    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し