「しぐれ茶漬」柏田道夫著

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 江戸時代の料理本のベストセラーに「豆腐百珍」がある。その名の通り、100種類に及ぶ豆腐料理の調理法が記されていて、その中に「雪消飯」という、なんとも風流な名前の豆腐料理がある。

 炊いたご飯をいったん湯に通してザルにあげ、もう一度釜で蒸した湯とり飯を作る。次にうどんのように細く切って酒と醤油で煮た豆腐を蓋つきの丼によそい、その上に大根おろしをのせて、湯とり飯をかける。蓋を取ると、溶けかかる泡雪のようなご飯と豆腐が現れる次第。本書には、この雪消飯をはじめ、鯉のあらい、鰻丼、きんつば、文字焼き、時雨茶漬、たまごかゆ、てっちり等々全21品の江戸時代の食べ物が、1作10ページ前後の極めてコンパクトな物語に登場する。

【あらすじ】骨董屋の雇われ用心棒をしていた浪人が、やけどを負って人前に出られない娘の作る筍ごはんを口にして、その心根を感じて2人で新しい人生を始める。(「筍ごはん」)

 飢え死にしそうなところを救ってくれた呉服屋の娘が死に瀕していると聞いた修業中の料理人が、丹精込めて作る稲荷寿司。(「稲荷寿司」)

 まがい物のみそ田楽でインチキ商売をしていた2人組が、吉原の花魁にこっぴどく叱られ、心機一転、おいしい本物を作るべく修業し、あの花魁に食べてもらおうと捜すが、すでに吉原にはおらず、ようやく再会した彼女は……。(「みそ田楽」)

 食材と登場人物の組み合わせが、ほろ苦く、切なく、心温まる、さまざまな物語を生み出していく。なかには、山東京伝と鮎の塩焼き、大石主税と天ぷらといった実在の人物も登場する。一品の量は少なめだが、すべて味わうとかなりの満腹感を得られる。 <石>

(光文社 600円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

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