「音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む」川原繁人著

公開日: 更新日:

 鋭角的でギザギザな図形と柔らかな曲線の図形がある。どちらが「タケテ」でどちらが「マルマ」という名前かと問うと、母語や年齢に関係なく大多数の人が前者をタケテだと答える。音声学には阻害音と共鳴音という子音の分類法がある。前者は「パ、タ、カ、バ、ダ、ガ、サ、ザ、ハ」行、後者は「マ、ナ、ヤ、ラ、ワ」行の音だ。阻害音は硬く角張った印象で、共鳴音は柔らかく優しい印象。阻害音から成っているタケテがギザギザの方に名付けられるのは妥当ということになる。

 こうした音の意味のつながりを「音象徴」という。音声学者の著者は、娘たちとアニメのフレッシュプリキュアごっこをしているときにあることに気づく。プリキュアの登場人物の名前には、ベリー、パッション、ピーチ、パインなど、最初に両唇が閉じる「両唇破裂音」が圧倒的に多いのだ。なぜか。赤ちゃんが話し始める子音は「バブー」など両唇音であり、両唇音→赤ちゃん→可愛い→プリキュア、というつながりがあるのではないか。

 さらに、赤ちゃんが両唇音を使うのは母乳やミルクを吸うために唇を動かす筋肉が発達し、両唇音が得意技になる──と推察していく。また、ポケモンが進化すると名前に濁音が付くようになる(イワーク↓ハガネール)のは、音象徴で、濁音は「大きい、強い」を意味するからだとも。

 これら音声学にまつわることばの不思議を、著者は2人の娘の発達過程を見守りながら次々に発見していく。その思いつきを援護射撃するのは、同じ言語学者の妻であり、ときに著者の偏りを絶妙に修正していく。この言語学者夫妻は「ふみきり(踏切)→ふみちり」「さんびき(三匹)→さんぴき」といった子どもの言い間違いも、格好の研究材料として直そうとしない。

 音声学の入門書の役割を果たすと同時に、学者夫妻のユニークな子育て日記として読むこともできる。 <狸>

(朝日出版社 1925円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  2. 2

    桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」《麦巻さん》《鈴さん》に次ぐ愛されキャラは44歳朝ドラ女優の《青葉さん》

  3. 3

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  4. 4

    元横綱白鵬「相撲協会退職報道」で露呈したスカスカの人望…現状は《同じ一門からもかばう声なし》

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  1. 6

    西内まりや→引退、永野芽郁→映画公開…「ニコラ」出身女優2人についた“不条理な格差”

  2. 7

    永野芽郁“二股不倫”疑惑でCM動画削除が加速…聞こえてきたスポンサー関係者の冷静すぎる「本音」

  3. 8

    佐々木朗希が患う「インピンジメント症候群」とは? 専門家は手術の可能性にまで言及

  4. 9

    綾瀬はるかは棚ぼた? 永野芽郁“失脚”でCM美女たちのポスト女王争奪戦が勃発

  5. 10

    江藤拓“年貢大臣”の永田町の評判はパワハラ気質の「困った人」…農水官僚に「このバカヤロー」と八つ当たり