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「日本人と自衛隊」 アーロン・スキャブランド著 花田知恵訳

 深刻なセクハラ事件に上級将校の機密漏洩と、自衛隊のスキャンダルが止まらない。防衛費急増の陰でこの体たらくは何事か。

  ◇  ◇  ◇

 アメリカ人で日本近代史を専門とし、前著「犬の帝国」で話題になった著者。本書では「戦後日本の恥部」とまでさげすまれた自衛隊が長年かけてなしとげた自己革新と社会認識の変化が双方向的だったと論じる。

「専守防衛」の理念は吉田茂の発案。「極端に低い防衛予算」を可能にするためにアメリカと従属的同盟関係を結び、ひたすら経済成長を最優先する「吉田ドクトリン」から生まれた自衛隊。当初国民の目は冷淡そのものだったが、著者は戦後のドイツ連邦軍もベトナム戦争後の米軍も冷遇された点は同じという。

 しかし、自衛隊への「疑念と反感」は「ほかに比肩するものがないほど」激しかった。

 その結果、自衛隊は「兵士」ではなく「隊員」の集団となり、1970年の三島由紀夫と「楯の会」による衝撃的な市ケ谷襲撃の際も、蓄えた「防衛アイデンティティー」を失うことはなくなる。本書のユニークな点は戦後日本の歩みが自衛隊という組織の文化を変えた過程に注目していること。

 著者は最後に「専守防衛にもとづく自衛隊の防衛アイデンティティーへの支持が、憲法改正および自衛隊を軍隊に変えようとする試みを妨げるかもしれない」と述べている。

(原書房 3520円)

「絶望の自衛隊」 三宅勝久著

 いかに専守防衛、災害出動の英雄的献身と美辞をならべても、自衛隊はやはり暴力集団ではないか。そう感じさせたのが、若い女性自衛官の性的暴力に対する告発だ。

 本書はこの事件が単独でも偶発事でもないことを明らかにする。著者は海外取材経験も豊富なジャーナリスト。誇りや憧れを持って自衛隊に入隊したにもかかわらず、先輩や教官からのイジメやシゴキ、肉体的・精神的な暴力に苦しめられた若者たちからていねいに話を聞いている。

 初期訓練でひざを痛めたのがきっかけでイジメに遭い、自殺に追いこまれた陸自2曹。江田島での訓練中から同期に暴力を受け、教官からは退職を強要された海自3曹。エリート士官を養成するはずの防衛大学校でも虐待は日常茶飯事。著者の取材中も自衛隊や防衛省の職員による監視が付きまとったという。

 忍耐と服従を強要する組織の体質は不変ではないのかと著者は言う。

(花伝社 1870円)

「防衛大学校」 國分良成著

 著者は一昨年3月まで防衛大学校の校長を9年にわたってつとめた政治学者。当然、本書は自衛隊に対しても好意的だ。

 横須賀にある防衛大学校は自衛隊の上級幹部将校を育成するための専門機関。著者によると「大学」と「士官学校」の両様で、陸海空の士官候補生を合同で教育する士官学校は世界でもまれだという。大学の学部に当たる本科の学生は留学生をふくめ全体で2000人。

 本書は組織や教育内容のほか学生の日常や気質、トラブルにも触れる。特に2013年に発覚した保険金詐欺事件は在校生13人が懲戒退校、卒業生4人が懲戒免職、卒業して民間企業に進んだ卒業生1人も書類送検という大規模な醜聞となった。

 著者は事実を紹介したあと「組織的犯罪ではなかった」とあっさり書くが、学生間で代々、詐取のテクニックが伝授継承されていたのではないか。

 防大卒の士官と一般隊員の関わりなど身内ゆえに知り得ただろう側面まで踏み込んでほしかった。

(中央公論新社 2200円)

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