荻原浩(作家)
7月×日 それにしても暑い。地球は壊れかけているんじゃないだろうか。我々にできるのは冷房の温度を上げること──という段階はとうに過ぎている気がする。無駄にエアコンを使わないようにと考えても、ニュースでは、「熱中症をふせぐためにきちんとエアコンを利用しましょう」。ロシアとウクライナの戦争も異常気象に無関係ではないだろう。一市民は何をすればいいのか、何をしちゃあいけないのか、汗にまみれて考えなくては。
7月×日 夏といえばホラー、だなんて誰が決めたんだろう。背筋が凍って暑さを忘れる? いやいや、そんな効果、誰も期待してないと思う。
ホラーは苦手だ。映画がだめ。本当にあった系もだめ。怪談話とかお化け屋敷は平気なんだけど。ほら、最近の映像技術ってすごくリアルだし、本当にあったと言われると、信じてしまう素直な性格なもんで──ってようするに臆病なだけだ。
小説なら平気。宮部みゆきの「三島屋変調百物語」シリーズは新刊が出たら必ず買うし、澤村伊智の「比嘉姉妹」シリーズも好きだ。どちらもとんでもなく怖くはないし──というと誉め言葉になっていないようだが、怖がらせるだけじゃない、物語としての奥の深さがいいのだ。登場人物たちが魅力的で、彼らが一緒にいてくれる感じがするから、夜中に読んでもだいじょうぶ。
ホラーではないけれど、宮部みゆき著「ぼんぼん彩句」(KADOKAWA 1980円)を読む。短編集。どの編も一句の俳句から題材を得て書いたものだそうだ。
それぞれ短編としても短めだが、一編一編が濃い。やっぱり宮部みゆきは何を書いてもうまい、面白い。しかも題材になった俳句の世界とちゃんと繋がっていることが、読み終えたときにわかる。
ジャンルのないザ・小説が並ぶ短編集で、人間と人間のかかわりが主役なのだが、ときどき恐ろしい。「お化けより人間のほうが怖い」。よく言われる言葉に、怖がりの私は、んなことないとつねづね首をかしげているのだが、本当かもしれない。