「世界のパッチワーク」カトリーヌ・ルグラン著、石上美紀監修
「世界のパッチワーク」カトリーヌ・ルグラン著、石上美紀監修
1年ほど前、突発性の「編み物熱」に罹患した。毎朝目が覚めると、かぎ針を手にせずにはいられない。原稿を書いたり打ち合わせをしていても「あぁ、早く終わらせて編み物したい」とうずうずしてくる。手持ちの毛糸在庫が切れてしまうのが怖くて、100円ショップに毛糸を買いに走ることもしばしば。中毒症状は数カ月続いたのちにパタリとやんだ。熱が冷めた今も、手芸をすると気分が落ち着く、あの感覚だけは残っている。
古今東西、人類は編んだり縫ったりしながら気持ちを落ち着かせてきたのだろう。たぶんパッチワークもそのひとつ。アフリカでは男性の職人が、欧米ではご婦人たちが、小さな生地をチクチクと縫い合わせて作品を生み出してきた。
本書は世界のパッチワークに魅せられたフランス人デザイナーのコレクションをまとめたディープかつ豪華な一冊。33カ国の多様なパッチワークに胸が躍る。カラフルな衣装から縫い目のアップまで、掲載写真がどれも美しい。もともとは端切れの再利用や衣服の繕いのために始まったパッチワークが、布教の一環としての裁縫教室、社会にメッセージを伝えるプロテスト・キルト運動などに展開していく経緯も興味深い。
わたし自身の手芸ブームはあっけなく去り、裁縫関係の本は一冊も持っていない。ので、本書は自室の「世界棚」に置くことにしよう。世界の市場を描いた絵本、世界のことわざを比較する辞典、世界の刑務所についてのノンフィクションなどと並べて悦に入る。世界を旅するように本を読むこの連載は本日が最終回です。でもまだまだ旅は続くよ、どこまでも! (グラフィック社 3960円)